【Second Season】第四章 場外乱闘はここにあり BGM#04”Team Play”.《009》
サーバー名、シータイエロー。始点ロケーション、常夏市・半島北側郊外。
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ようこそ蘇芳カナメ様、マネー(ゲーム)マスターへ。
◆◆◆
『ミドリ>マティーニエアコン、ねえ。ホントにこの一社だけなの、取り扱ってるのって?』
『カナメ>ま、ドーム球場丸ごと膨らませるような特殊用途の空調設備じゃ。フツーの会社で作っとるもんでもないのじゃろう』
『ミドリ>じゃろう?』
『カナメ>ツェリカこの野郎』
半島金融街も外れの方までやってくると涼しくなってくる。全体的に、海に向けて緩やかにすり鉢状になっているためだ。高度が上がれば気温は下がるので、こちらは避暑地やゴルフ場などのリゾートまわりでその価値を上げていた。きめ細かい浜辺の砂が敷き詰められた中心街と違い、この辺りは背の低い緑色の草原が起伏のある大地に張り付いている。元は荒地だったが、納豆のネバネバか何かを利用した吸水素材を使って農地開発しているエリアだ。
他に特徴的なのは、ちらほらと点在する巨人のシーソーのような影か。ポンプジャック。地中から石油を取り出す採掘施設のはずだ。
リアル世界でいったん休息を挟んで、真夜中の話だった。
高圧電線の鉄塔の列と太い幹線道路が交差するスポットで、カナメはミントグリーンのクーペから降りていた。
でもって片手で悪魔の尻尾をぐいぐい掴み上げている。
「なりすましはダメだとこいつあれほど」
「ひにゃあああああああああああ!? たったた他意などないのじゃ、じっ、自分のアカウント挟むのめんど臭くて助手席から目線操作しただけじゃろ。待てっ、縛るのか? まさかわらわの尻尾鉄塔に固結びすんのかこのまま一人大自然に置き去りにして旦那様クーペで華麗に走り去るのかそれだけはァーっ!?」
やや遅れて、小さなお尻で赤い紅葉柄の大型バイクにまたがるミドリがやってきた。スタンドを立てて、足を大きく振り上げるような格好で降りてくる。……水着だから気にしない、というほどデリカシーがない訳ではないだろうが、あの動き、実は犬のおしっこにも似ているのは内緒にしておいた方がよさそうだ。
「ひゃー、流石にこの辺りまで来ると肌寒いわね。時間帯の問題もあるのかしら」
「そっち地肌剥き出しのバイクだろ。だからパーカーとレインコートくらい椅子の下のメットインにでも突っ込んでおくべきだって……」
「あーあーあー! あなた私のお母さんか!?」
どうやら黒髪ツインテールの反抗期がとどまる所を知らなくなってしまったようだ。幸先が悪くて不安になってくる。
中心街と違って星空の自己主張が激しかった。どういう訳かすぐそこの地面がつるりとした樹脂で四角く埋めてあるので大自然の魅力を全身で浴びるほどでもなかったが。そんな中、カナメは涙目でいじける悪魔に声をかける。
「ツェリカ、最終確認取るぞ。例のエアコンメーカーは『外』の企業で良いんだな」
「おうとも」
マネー(ゲーム)マスターではNPC社員の一人一人まで忠実に再現した街の中の企業と、データで取引記録を作るだけの(つまり非モデリングで簡略化された)外の企業がある。見慣れたRPGでもお店と言えば武器屋防具屋道具屋宿屋くらいのもので、窓辺にカーテン一枚飾るのにどれだけの人間が動いているかまでは正確に管理されてはいないだろう。それと同じだ。
マギステルスの美女は自分の尻尾にふーふー息を吹きかけ、クーペのボディや自前のレースクイーン衣装にそういった資料を展開しつつ、
「過去の襲撃事件を動画で追う限り、マティーニエアコンは陸路、それも複数のトレーラーと護衛車を使った大名行列を組んで街の外から中へ商品を運び込んでくる。リヴァイアサンズにとってはもはや毎度のカモネギじゃろうな」
堅牢ではあってものろのろ進むトレーラー車列は、放っておけば今回も爆破されておしまいだろう。
カナメ達は陰からひっそりこいつらを守ってビヨンデッタドームまで送り届ける。そこまでリヴァイアサンズ側を揺さぶらなければ、連中が大切に隠し持つ『リスト』は表に出てこない。
泣いて差し出してくるまでやる。
リアルでやったらすぐさま警察が飛んでくるレベルでも、ゲームの中ならお構いなしだ。
ミドリはそっと息を吐いて、
「……それにしても凄まじい話よね。向こうは無尽蔵に増援を呼べるAI制御のマッチョなPMC部隊を全部蹴散らして車列を襲う訳でしょ。普通に考えれば自殺行為じゃない」
「その辺は『遺産』サマサマじゃのうー」
「……、」
ミドリの眼光が剣呑なものになった。
彼女が見聞きした話はカナメ達も共有している。消えた兄の『遺産』を好き放題使って、スタジアムを乗っ取られた少年達親子が苦しめられている。ツインテールの少女からすれば、二重の意味で許し難い事件なのだろう。
カナメはツェリカのボディラインに目をやり、少し考えてから、
「やっぱり、トレーラーの正確な出現ポイントまでは割り出せないか?」
「難しいの。それができていたらリヴァイアサンズの連中は街の境界線に地雷一個仕掛けて終わりじゃろう。こいつはNPC限定じゃが、街の境界線から二キロ前後は出入りする車がいきなりワープしたように振る舞う。ゆっても州単位の土地じゃ。陸路で『外』と連結しておるのはサメの歯みたいな半島の北側だけなのが救いじゃが、それでも正確にどこの道から街に入ってくるかまでは分からんよ」
「そういや、私達が街の外に出ようとするとどうなるんだっけ?」
「透明な壁に激突する。ミドリ、試すなら徒歩にしろ。バイクに乗ってると即死扱いになる」
私は窓にぶつかる子猫かっ!? と大変ネコミミや尻尾の似合いそうな黒ゴス調のフリルビキニが吼えていた。
ともあれ、
「この車列が街に入ってきたら護衛して目的地のビヨンデッタドームまで送り届ける。リヴァイアサンズとかち合った場合は排除する」
「ふむふむ」
ツェリカは頷きながら、ビキニやミニスカートなど自分のボディラインを這い回る資料のいくつかに要注目のタグをつけていく。
「出現ポイントがランダムなら、どこであれ北から街の中心部へ行くのに必要な太い道で待ち伏せる。つまりここ。中心街に繋がる天津トンネルを潜るには必ず通らなくちゃならないだろうしな」
「ああ、あれね……。バイクの私としちゃ排ガス祭りでたまったものじゃなかったけど」
「文句言うな、おかげで荒地からガトリング銃で掃射される危険地帯を少しでも減らせるんじゃ。天津トンネルまで入ってしまえばリヴァイアサンズの得意なロングレンジは使えない。何しろ同じトンネルに飛び込まんとならんしの。特にピリピリせねばならんのは郊外コースの前半だけじゃ」
「例の車列のヘッドライトの群れが見えたらスタートだ」
「分かったけど……問題の護衛対象っていうのは? まあ、AI企業のものなんだからヤワじゃないって話なんだろうけど」
「動画で確認する限り、マティーニエアコン側の護衛は主に分厚い防弾仕様の黒塗り高級車の分厚い防弾仕様と取り回し優先でアサルトライフルを短く切り詰めたカービン銃の組み合わせじゃ。車については見た目こそスマートじゃが中身はパワフルな四駆じゃの。こいつでトレーラー車列の前後を挟んでおる」
レースクイーン衣装だけでは面積が足りなくなってきたのだろう、ツェリカはミントグリーンのクーペ一面に整頓した映像資料を並べ立てて、
「対するリヴァイアサンズ側は身軽なオフロードバイクが一〇台ほど。運転は人間で射撃はマギステルスに預けるパターンが多い」
「えっ、マギステルスが?」
「そう言えばあんたの冥鬼は気紛れだったっけか。育て方次第で何でもやってくれるよ。スキルは人間とマギステルスで共有だから、人間側も自前の装備品でサポートしてやれるし。そうだな、俺の妹のマギステルスにはシンディっていうダークエルフがいたんだけど」
「うん」
「そいつは車の運転も銃の射撃もどっちもいけた。代わりに金融取引がからっきしだったけど」
「……えと、マギステルスって、AI制御なのに?」
「九九で七の段をきちんと言えない子だった。だから帳簿計算はいっつも妹が自分の手でやっていたよ。ともあれ、後はバイクとは別に司令塔と思しき四駆の大型バギーが一台かな」
「……まさかサッカーらしくイレブン編制なの……?」
「さてな。普通に考えれば、『遺産』があってもPMC相手に真正面からの撃ち合いで勝てるとは思えん。特にバイクの方は装甲がない、剥き出しの露出狂なんぞ体のどこを撃っても一発で即死じゃからの。衣服に奮発して防弾スキルの『バレットプルーフ』なんかに頼っていても、撃たれたらバランス崩してそのままコケるだけじゃし」
なにおう、と二輪派のミドリが唇を尖らせたが、今はどっちが最強議論をしたいのではなく、
「ようは、リヴァイアサンズはアスファルトの道順に頼らないオフロードの自由度を巧みに使ってくる訳だ。いくらでも距離を離せるなら、護衛のカービン銃の射程外からでも一方的に狙える。例のガトリング銃だってな。そしてこれは同時に、道が不要なら罠も仕掛け放題だって事でもある。爆薬で橋を落としたり、トンネルを埋めたり、ワイヤーを張ったり、オフルート地雷を仕掛けたり……。むしろ、自分が使わないルートに気を遣うディーラーの方が珍しい」
「うええ、普通の銃撃戦より陰湿ね。……悪徳ディーラーらしいと言えばらしいけど」
「怖いのは分かりやすい『遺産』よりも見えない罠じゃ。こっちは一発作動したらその時点で強制終了。よって最優先で始末するがよい」
「?」
「ようは車列より先に進んで、引っかかりそうな罠を全部見つけて排除する。細かい爆弾処理は必要ない、遠くから鉛弾でも撃ち込んで安全に誘爆させれば良い」
「いくら『遺産』のガトリング銃振り回したって、それだけであそこまで頑丈な車列を壊滅できるとは思えん。罠で止め、『遺産』で始末する。この流れを作らせるでないぞ、止まりさえしなければトレーラーは目的地まで到着するじゃろう」
加えて言えば、道順無視のオフロード作戦がものを言うのは何もない開けた郊外だけだ。辺り一面ビルだらけの中心街まで入ってしまえばリヴァイアサンズも遮蔽物に邪魔されて射線を確保できなくなるのでアスファルトの道に頼らざるを得ないし、交通量が多過ぎると適切に罠が起動しないケースも出てくる。ようは、無関係な人や車が踏んづけるためだ。
「要点さえ押さえておけば難しい話でもない」
カナメはミントグリーンのクーペ、その運転席のドアに手をかける。
「光が見えたぞ。例の車列のヘッドライトだ。俺達も始めよう、ミドリ」
「了解」
ミドリもミドリで大型バイクに飛び乗りながら、
「……こんな理不尽、ここで終わりにするわよ。兄の『遺産』やそいつをまとめた『リスト』にしても、海辺親子のスタジアムにしても! 今夜全部返してもらう!!」
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