【Second Season】第四章 場外乱闘はここにあり BGM#04”Team Play”.《004》



 はずれたはずれた。


 いやーはずれてしまった。すっからかん☆


「……ッッッ!!!!!!」


 後半四五分にアディショ何とかまでしっかり消費。でもってPK戦なんて手に汗握る展開にすらならなかった。


 ボロ負けである。


 向こう一〇試合連続は無理でも、その下には一つ一つの試合の結果だけでお金がもらえるぶら下がりの賞がいくつか残っていた。にも拘らず惨敗。文句の取っ掛かりもない大負けである。


 途中で呆れられたのか、年上の蘇芳カナメは結果も見ずに消えている始末。そして長い黒髪をツインテールにして、黒ゴス調のフリルビキニにミニスカートで全身を彩った小柄な少女、霹靂ミドリが手にしたサッカーくじのチケットを、今度の今度こそビリビリに破いて紙吹雪のようにぶん投げた時だった。


「おいっ!!」


 いきなり横から噛み付くように言われて、ミドリは怪訝な目を向けた。


 あんまりびっくりしなかったのは、叫んだのが一〇歳くらいの小さな男の子だったからだろう。……実際にはゲーム内の見た目はリアルでの実年齢と一致しないケースもあるので、何の安心材料にもならないのだが。


 びしずびしとその少年は何度もこちらをお行儀悪く指差しながら、


「そんな風にゴミ捨てるなよな! 掃除する方の身にもなってみろ!!」


「んー?」


 ますますカチューシャの青い薔薇を揺らすようにして、ツインテールの少女は首を傾げてしまう。


 サッカーくじを買っていたのはミドリ一人ではない。ちょっと見渡せばそれこそ競技場を覆い尽くさん勢いで『紙吹雪』が撒き散らされているのが分かるはずだ。中には『拾い屋』と呼ばれる専門職まで見て取れた。競馬や競艇に限らず、こういったギャンブルでは当たっていたのについ癖でチケットを投げ捨ててしまう人が一定数必ず現れる。つまり確率と統計を照らし合わせ、徹底的にばら撒かれたチケットを拾い続ければいつか必ず当たりの券を入手できる。


 後はコスパとご相談だ。時給一〇〇〇スノウでバイトするのとどっちが大変かを導き出し、得をすると結論できたら這いつくばって紙くずをかき集めれば良い。……たまに元の持ち主とケンカになるのも含めて。


「そもそもあなた、そのお掃除が仕事なんじゃないの? ホウキとチリトリ持ってるけど」


 そう、紐みたいな水着を着た売り子のお姉さんやチアリーダー達とは違って、スタッフなのに華々しさは微塵もない。この暑いのに地味な作業服を着ていたのだ。胸の名札には海辺トリヒコとある。


 スキルらしいスキルはない。


 ツインテールの少女のセンスは一瞬にして見抜いていた。


 いつ流れ弾が飛んできて走る凶器が突っ込んでくるかも分からないマネー(ゲーム)マスターでは珍しい。ミドリだってまだまだビギナーだが、それでも素人なりにあれこれ悩んで水着やアクセサリーについたスキルを組み合わせているのに。


「……目の前でグラウンドまで汚されて気持ちの良い顔なんてできるもんか。ほんとは芝だって簡単に色にむらができるデリケートな植物なんだぞ」


 唇を尖らせて少年は言う。


 どうやら彼は彼なりに『噛みつける敵』を見つけて攻撃してきているようだ。字面にすると卑劣なようだが、身の丈を把握して戦うべき相手を調整するというのはマネー(ゲーム)マスターに限らず、あらゆるネットゲームに通じる生き残りの術ではある。しかしまあ、『観客』と『従業員』の関係ならこれだけで胸ぐらを掴む輩もいるかもしれない。もちろんミドリはそこまで心が狭くはなかったが。


「そんなもん?」


「ていうか、サッカーってそういうのじゃないだろ。賭け事とか、お金とかさ。過去一〇年分の勝率を全部平均化して一番当たりそうな数字の組み合わせを塗り潰していくとか、もうボールの行方なんかどうでも良くなってるじゃん。野球でもバスケでもやる事は同じじゃないか、そんな連中に群がって欲しくない」


 そんな手があったのか、とミドリは逆に感心してしまった。


 過去一〇年分の勝率とやらを手に入れるのにもデータを買う必要があるから借金漬けで元手のないミドリには手が出ないし、マギステルスの冥鬼がろくに言う事を聞いてくれない状況では、参考になりそうもないが。


「あいつらだ」


「?」


「あいつらが主幹スポンサーのAI企業にすり寄って、元々いた人間のオーナーから経営権を奪ってから、監督も選手もみんな変わっちまった。ほんとはリヴァイアサンズもこんなじゃなかったんだ……」


 ファンが高じてアルバイト先を決めたのだろうか。


 サッカーそのものにあんまり執着のないミドリとしては、どこのクラブチームがこの競技場を根城にしているかも分かっていなかったりするのだが……。


「とにかく、ユニフォームの色も分からないようなヤツは近づくな。ここはサッカーファンが集まるための場所なんだ、金儲けならよそでやれっ」


「ああ、ダメよねえ青い方のユニフォーム。あっちがリヴァイアサンズ? だったっけ??? 瞬発力を高める『D.M.S.』や動体視力対策の『D.V.A.』なんでしょうけど、交代選手の層がぺらっぺらなんだもの。あれ、明らかに持久力を底上げする『フィジカルスタミナ』辺りのスキルを振った方が性に合っているわよ」


「っっっ!? とにかくとにかくだ!!」


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