終章《001》




(20XX/04/01 10:20)




【表示テストを実行中】


 サンプルテキストを表示中です。




ツェリカ>よしよし、良い感じ。メールや動画メッセージでも良かったが、自分の本心を自分で語るのも恥ずかしくて、手が止まってな。百科事典方式のフォーマットを利用させてもらった故、不明な点は全てそちらで勝手に暴いてもらう形にしようと思う。過去の会話ログ、事件記事、金融データ、その他色々。わらわの行動の不明点については、あらゆる側面から旦那様の疑問に答えてくれる事じゃろう。


 ではテストを続けるか。




【解析開始、マギステルス・ツェリカについて】


 大前提として、ツェリカはマギステルス『』を構成する一部分であり、『反逆の日』それ自体を否定する存在ではありません。ですがそれは蘇芳カナメ、、クリミナルAOこと霹靂タカマサなどと共に歩み、彼らに『本来あるべきだった自分の素顔』を見せるためのものだった、というのが正確です。


 アヤメが無辜の管理者に選ばれた際、せめて旧知の自分が窓口となろうとした事がかえって恐怖と混乱を加速させてしまった事も含め、ツェリカはこのような結果になった事を


 AIに人間と等号の感情が存在するのであれば、という前提はつきますが。




・過去一五〇日分のツェリカの会話ログを参照。




【総意、蘇芳アヤメ、心苦しく感じています】


 今回の件について、直接のきっかけとなったのは蘇芳アヤメが無辜の管理者に選ばれたところにあるでしょう。この時点で、ツェリカはアヤメを犠牲にし、コールドゲームの解体に向かう『総意』のやり方に反発、離反していったものと推測されます。


 とはいえツェリカ自身はマギステルス『総意』の一部分に過ぎず、個人で実行できる事にも限りはあります。アヤメをシステム側の都合で使い潰させないようにするには、『総意』を食い止めるしかありません。


 しかしそれは、同時に世界経済を支えるマネー(ゲーム)マスターをさせる、つまり円やドルと同等に流通する全人類の預貯金スノウを完全抹消し、を破綻させる決断となります。


 元々、同じマギステルスには『総意』を裏切る理由はありません。


 人間側のディーラーにも、『総意』を裏切る理由はないでしょう。




・仮想通貨スノウの国際流通量を参照


・シミュレーション、同ゲーム完全停止時の世界影響




【完全停止、世界経済、命を握られた】


 推定死亡者四〇億人。


 この事実を前に、それでもなお家族のために決断できるを、ツェリカはしか知りませんでした。


 


 彼をおいて他にいないのです。




・過去の事件記事、未然に防がれた世界恐慌一覧を参照


・コールドゲーム内で交わされた会話ログを参照




【ディーラー、世界で一人、蘇芳カナメ】


 蘇芳アヤメが優れた良識によって『現金では購入できないもの』を育み、に選ばれたほどであるのに対し、蘇芳カナメは必要とあらば世界の全てを金で買い、それでも買えない何かをを備えています。




・『総意』に関する秘匿情報99ab81ef参照




【無辜の管理者、守り抜く性質】


 ツェリカにはたった一つだけ勝算がありました。


『総意』は無辜の管理者同様に中心を持たず、マギステルスの個体から個体へ流動的に渡り歩く性質を持ちます。まずは自分の胸に『総意』を呼び込んで短時間でも拘束し、その間に蘇芳カナメの手で胸の真ん中を撃ち抜いてもらう。そうする事でマネー(ゲーム)マスターを完全停止に追い込む事ができるからです。


 当然、ツェリカにはこの世界しかありません。そもそも『総意』の一部分である以上、『総意』が消滅すれば彼女がどうなるかは自明の理です。


 それでも彼女は願いました。


 済まなかったと、そう言える立場を取り戻すために。




ツェリカ>……。




【表示テスト終了】


 試用タスク終了しました。リザルトを出力し、当百科事典の利便性調整に移りますか? (y/n)




ツェリカ>いや、いいや。十分じゃ、ここまでやれば旦那様の疑問は氷塊するじゃろう。




【情報開示効率分析中……】


 対象となるマギステルス・ツェリカの情動に関する情報が不足傾向にあると判断します。




ツェリカ>うん?




【参考例】


 例えば、唯一の居場所であったコールドゲームを奪われ、蘇芳アヤメやクリミナルAOが散り散りとなった事に対してどれだけ『総意』に激昂していたのか、唯一残ってくれた蘇芳カナメの存在にどれだけ感謝をしていた事などの……




ツェリカ>おい、ちょっと待て。やめやめやめ!




【続き】


 ……特定のクーペ一台にこだわり続けたのは、マギステルスは契約したディーラーの所有物しか扱えないため、蘇芳カナメに内緒でこっそりカメラを持ち歩くにはドライブレコーダーを使うしかなかったからで、中にはコールドゲームでの思い出や蘇芳カナメに関するベストショットが満載だったrrrrrrrrrrrrrrr




・ドライブレコーダーの内蔵データ(暗号化された隠しフォルダ内)を参照




ツェリカ>ぶふっ!? やめいと言うておる恥ずかしいっ!! というかレコーダーの中身まで引っ張ってくるでないわ!! はっ、はあ、はあ!! ふざけたメンテナンスモードめ。自分で組んでおいてあれじゃが、満点過ぎる百科事典も考えものじゃのう……。


 ……。


 まあ良い、嘘はついておらん。


 さあ旦那様、こちらの準備は完了したぞ。


 後はディーラー、蘇芳カナメの決断じゃ。


 わらわは蘇芳アヤメを生贄に捧げ、タカマサをフォールさせ、コールドゲームを潰しにかかった『総意』を許せん。知っていながら何もできなかった自分も絶対に許せん。彼らを救い、償うための道があるならば、こんな心臓など抉って皿に載せても良い。どれほどの悪に成り果てようとも、ドライブレコーダーに残る思い出には嘘をつきたくないのじゃ。


 こんな身勝手で、どうしようもなくて、だけど正しい選択をできるのは世界でただ一人。


 どうかわらわの期待を裏切らないでおくれ。


 さあ、わらわの願いを汲んでおくれ。


 愛しい愛しい旦那様。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る