第二章 地底と天空 BGM #02 ”dive to freedom”.《021》




 フォールの間際、リリィキスカはこんな事を言っていた。


 息も絶え絶え、この後無数のディーラー達に貪られて借金地獄に転落し、何度やり直しを求めてもライバル達から踏み潰される事を考えると、もうログインは難しいかもしれない。そんな彼女が嘘をつく可能性は低い。




『私達が「遺産」を独占して、自分の力にしようとしていたのは事実よ。でも、それは私達の私欲のためじゃない』




『マネー(ゲーム)マスターの中で流通するスノウは仮想通貨となり、円やドルと同じくらい重宝されている。世界経済はゲームで回っている。だけどここで重要なのが、管理者の存在よ……』




『このゲームは誰もサーバーの場所を知らない。どんな風に運営しているかは分からない。だからこそ誰にも懐柔も脅迫もされない。でも、私達は管理者の存在をずっと追っていた』




『だって、不気味じゃない。もしもこのゲームに特別権限を持つ者がいたら、指先一つで全てが決まる。それは単にこっちの世界だけの話じゃない。すっかり依存しきった七〇億人全体のお財布に直結する問題なのよ』




『「そいつ」は好きな時に個人の口座をすっからかんにして、好きな場所で国家さえも滅ぼせる。そんな存在と交渉するためには、それこそゲームバランスを崩すようなとてつもない力が必要だった。……今度は、私がコールドゲームのお兄さんを守るためにね』




『クリミナルAOのフォールは、私達にとっては都合が良かった』




『でも引き金を引いたのは、きっと管理者の方よ。「終の魔法オーバートリック」は、あまりにも突き抜けていた。あらかじめ設定されていた世界観の上限を超えたカスタム。そんなものを管理者が認める訳がない。ランキングの一極集中はゲームを硬化させる。……だから、適度に引っ掻き回す必要があったんでしょう』




『管理者の名前?』




『あなたの方が詳しく知っているんじゃないかしら。そいつは今は退会した事になっているけど、発端となったクリミナルAOフォールの事件にも顔を出している。本名は私にも分からないけど、こっちの世界で使っていたハンドルなら何とか掴んだ』




『蘇芳アヤメ』




『確か、あなたの妹を名乗っていたけど、これってキャラ作り? それともリアル世界でもそうなのかしら』






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