第二章 地底と天空 BGM #02 ”dive to freedom”.《020》
蘇芳カナメは、しばし横殴りの雨の中で立ち尽くしていた。
やがて、非常階段の扉をぶち破るような格好で真っ赤な紅葉柄の大型バイクが地上へやって来た。向こうも向こうでビルを守るAI制御のPMCを撒いてきたところなのだから大変だっただろう。
だが、ミドリの顔に一仕事終えた爽快感や解放感はなかった。
彼女はただ何もない濡れた路面を―――つい先ほどまで誰かが倒れていた場所を―――見て、顔をくしゃりと歪めていた。
「……『遺産』で、撃った」
ぽつりと、彼女は呟いていた。
「兄の遺したもので、誰も苦しむ人ができてほしくないって。そう言っていたのは自分なのに、私が撃った……」
「最後にトドメを刺したのは俺だ。あんたはまだ誰もフォールしてないよ」
吹っ切るようにカナメはそう答えた。
ようやく彼の中で時間が動き、バイクにまたがった少女の頭を胸元へ抱き寄せた。
どの道終わってしまった事。ここで立ち止まってもいられない。
まずはミントグリーンのクーペだ。
クレーン車を使って一〇メートル近いゴミの山からスポーツカーを一本釣りすると、予想通りツェリカはふぐみたいに頬を膨らませてむくれていた。サイクロンの真っ最中で工事現場にも人がいないのを良い事にかっぱらってきたというのに恩義を知らない悪魔である。
「すぐ拾うと言ったぞ! 旦那様はすぐわらわの神殿を拾うと約束したぞ!! つーかめり込んだゴミの山は他人の所有物扱いだからわらわの手では動かせん。外には出られん、ずーっとこのままじゃ! じっと待機の気持ちが分かるのかえ? そーれーなーのーにー!!」
「お互い無事だったから良かったじゃないか」
「どこがじゃ馬鹿者!! 放熱グリルも排気管の中も訳の分からんドロドロ汁だらけじゃぞ!? もう洗車場じゃ話にならん。さっさと修理工場に持って行け、はーやーくー持って行けェェェええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
だがカナメもカナメで頑として認めない。
「悪いがそれどころじゃないんだ」
「それどころじゃと……!?」
「とりあえずログアウトさせてくれ! その後は好きに乗り回してどこへ行っても構わないから!!」
「?」
切羽詰まった調子に、ツェリカは首をひねった。
見たところ、カナメもミドリも無事だ。そして手元には『#豪雨.err』と『#火線.err』。予定通りに『
まだ憂いがあるのか。
そんな疑問に、落ち着きのない様子でカナメは答える。
「……とんでもない事が分かったんだ。話を聞かなきゃならない」
「どこのディーラーに?」
ツェリカは反射的にそう尋ねたが、少年はこう言っていたではないか。
ログアウトさせてくれ、と。
「……だ……」
「何じゃって?」
「俺の妹だ!! あいつが今度の件に……クリミナルAOがフォールして『遺産』がばら撒かれた一件に一枚噛んでいる可能性が出てきた!! 事故じゃなくて作為的にな!!」
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