第二章 地底と天空 BGM #02 ”dive to freedom”.《016》




 標的の蘇芳カナメと霹靂ミドリはリリィキスカが装甲リムジンを使って路地の奥の工事現場に追い込んだ。


 後は狭い路地に突入する『銀貨の狼Agウルブズ』の他メンバー達の仕事だ。


 猫背のMスコープ、一本三つ編みのザウルスなどが車を降りて路地へ向かう。彼らが纏っているのは電気駆動する分厚い外殻服に、背で負った巨大なタンク。腰だめに構えているのはナフサを利用した火炎放射器だった。


 射程は二〇メートル強。連続噴射時間は三〇秒もないが、壁に囲まれ限定された工事現場ならこれで十分だ。多少狙いを外してもラジエーターを沸騰させて脚を止め、燃料タンクを炎で包んで起爆させる、マシン殺しの装備である。


 当然、物陰に隠れていようが、熱と酸欠空気は平気で回り込む。


 彼らにとっての懸念と言えば、


『破れかぶれで「#豪雨.err」が出てこないのを祈るばかりですよ』


『うるせえ根暗野郎だから先手必勝で炎ばら撒きゃ良いんだろうが』


 と、その時だった。


 ギャリギャリギャリ!! というタイヤの滑る音が奥から響き渡る。こちらに向けて突撃してくるかと身構えたMスコープ達だったが、その予想は大きく外れた。


 カナメ達は逃走に移ったのだ。


 唯一の出入口には火炎放射器を持つ『銀貨の狼Agウルブズ』のメンバー達が、他は全て建設機械やセメントの袋の山で塞がれているはずなのに。


 正方形の敷地全体をぐるりと回って十分な助走距離を獲得したミントグリーンのクーペが取った行動は。




 バウン!! と。


 低い段差に立てかけた工事作業用の鉄板を踏切板の代わりにして、空中へ大きく舞ったのだ。




『あ』


 呆然と見送ってしまったMスコープは思い出す。


 ビルの屋上から屋上へと飛び移る、『空追い人』というダイバー集団の存在を。


 続けざまに紅葉柄の真っ赤な大型バイクも空を飛び、平屋、背の低い建物の屋上へ。さらに『有志』がジャンプ台として設置していたであろう、別の踏切板を使って別の建物へとサーカスのように遊覧飛行していく。


 現実世界のドライビングテクニックではまずお目にかかれない、まさかの空中戦。


 だがここはマネー(ゲーム)マスター。現実以上のスリルが待つ世界。


『あいつら……!!』


 一本三つ編みの少女、ザウルスが激昂した時だった。


 彼女達は頭まですっぽりと外殻服を纏っていたからこそ、最後の瞬間まで気づけなかった。辺り一面には鼻に刺すような異臭が立ち込めていた事に。そして工事現場の土の地面が掘り返され、細い都市ガスの管が破られていた事に。


 極め付けに。


 地面に刺したアルミニウム還元式焼夷手榴弾のピンと真っ赤な大型バイクの間を、細いワイヤーが繋いでいた事に。




 きっちり五秒を空けて。


 正方形の工事現場全体が、オレンジ色の爆炎に呑み込まれていった。


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