第一章 大陸と海上 BGM #01 “auction & pirate”.《006》




 豪華客船が橋に差し掛かる。


 その時、『銀貨の狼Agウルブズ』の一員となったカナメは、ミントグリーンのクーペのボンネットへ目をやっていた。いくつかのウィンドウが開いている。最後の最後のその時に、傍らでボルトアクション式の狙撃銃の各部をいじっていたリリィキスカがふと横から覗き込むと、映っているのは武器のスペックや豪華客船の見取り図などではなく、




『お兄ちゃんへ。


 料理当番のお父さんが帰り遅れるらしいです。ご飯、自分達で何とかしちゃおうか。と言っても出前の蕎麦を頼むか牛丼屋に出かけるかくらいのものなんだけど。ピザはちょっと高いかなあ。スマホGPS使った自転車バイト君達に頼むのはちょっと怖いしね。他にアイデアある?』




「……さっきから何をしているの?」


「妹からメールが飛んできたから返信を。何でも良いからとにかく三分以内に返さないとあいつはムクれる」


「過保護なのね」


「自衛のためだよ、リフォームとか言って壁に穴を空けられたくない。しかも前にやらかしたのは風呂場の壁だ、信じられるか?」


 そういう精神集中方法なのかもしれない、とリリィキスカは評価を下す。彼女も耳につけた小さなピアスを自分の指で弾き、長距離狙撃に必須な手ブレ防止のスキルを確認していく。


 いよいよ『その時』が迫る。

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