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 トルテとニャルは、やって来た住人達から詳しい話を聞いた後、各々の畑を見回ることにした。

 二人は住人達を連れ家を出る。


 街路を外れ、森の中へ入った一行は、木々を縫うように歩いて間もなく、視界が開けた所に出てきた。


「これは……」

「ひどいにゃる……」


 二人の目に飛び込んだのは、踏み荒らされた畑。そこから飛び散った土壌や潰された苗、無造作に散らかった形の分からない作物達が、二人に痛みを訴えかけてくる。


「ほれ、ここにあるじゃろう?」


 言葉を失っていた二人に、住人の一人が声をかけてきた。その人が指す方向には猫に似た足跡があり、それは周りの至るところにつけられていた。


「確かにニャルの肉球に似てるわね。でもニャルのはこんなに大きくないし、もっと丸っこいわ――」

「っにやあっ!?」


 トルテが語る横でニャルからぎゅう、と音がすると、軽快な発破音と共に煙が飛び出した!


「ひどいにゃるよトルテぇ」


 ほどなくして、黒猫姿のニャルが煙から現れた。ニャルはトルテに長い尻尾を掴まれたまま地面に伏していた。


「だってあなた、こうやってとびっきり驚かさないと変化できないじゃない」

「だからって尻尾を掴まないでほしいにゃる!」

「これが嫌なら自分で変化できるようになりなさいよね」


 尻尾から手を離したトルテは、うなって動かないニャルをひょいと抱き上げた。そうして、ニャルの足と畑の足跡を照らし合わせる。

 足跡は、ニャルの足と段違いの大きさを誇っていた。


「トルテちゃんの言うとおりのようだねえ」

「だったら誰が俺達の畑を荒らしたんだ? このままじゃあ生活成り立たねえぞ」

「この街じゃあ、物々交換が全てだからねえ」


 首をひねり続ける住人達を見かねたトルテが、それなら、と声を上げた。


「あなた達が作物を実らせるまでの間、私が作った砂糖で生計を立てるといいわ」

「ほ、本当か?」

「ええ。いつもお世話になってるから、是非力になりたいの」

「ニャルもにゃる! 皆のお野菜が食べられるようになるまで、出来ることがあれば何でもしたいにゃる!」


 ニャルの発言に、偉いわね、と微笑みを浮かべたトルテは、ニャルの頭を撫でた。


「私達、あなた達の作物のおかげで毎朝心が満たされてるの――今日食べたサラダもとても美味しかったわ」


 だから、と、住人達に向き直ったトルテは、静かに頭を下げた。


「お願い。私達に、あなた達のお手伝いをさせて」

「トルテちゃん! 顔を上げておくれ?」

「おぬしらの気持ちは充分伝わった!」

「しばらくの間世話になるが、この恩は必ず! 旨い野菜でお返しするぜ! な、皆!」


 一人の問いかけに、住人達は力強く頷く。


「そうと決まったら、一旦私達の家に戻りましょう。そこで砂糖を手渡すわ」




 こうして、ニャルの疑いを晴らしたトルテは、畑を荒らされた住人達に、自らが精製した砂糖を手渡していった。


 手渡しが終わり、一段落した家の中で椅子に座るトルテは、食卓テーブルに広げた何かに印をつけていた。

 黒猫のままのニャルが、トルテの手元を覗くため肩に乗る。トルテが凝視していたのは、この辺りの地図だった。


「いろんな所に印をつけたにゃるね」

「ええ。今来た人達が住んでいる場所に、こうやって印をつけてみたんだけど……」


 トルテは唇を尖らせ、その上に筆をのせては頬杖をついた。ニャルが間近で顔を覗いてみるも、彼女は反応を示さない。


「トルテ! 考えてる事を教えるにゃる!」


 お腹をトルテの肩に乗せ、前足をばたつかせながら騒ぐニャル。そんなニャルの首根っこをトルテは黙ってつまみ、床に置いた。


「んにゃあ! どうしてニャルに教えてくれないにゃる――」


 その時、ぎゅるぎゅると、部屋中に響き渡るほどの音がした。それからトルテが、両手でお腹をおさえてみせる。


「トルテ、お腹が空いたにゃるね?」


 声をかけられたトルテはニャルに振り向き、苦笑を浮かべた。


「……朝は野菜と玉子だけだったものね……無理もないわ」


 トルテは上唇に乗せていた筆と地図を片手に席を立つと、床でのびているニャルを抱き上げた。


「朝に寄るはずだったパン屋さんで、ブランチ、とでもいきましょうか」

「ブランチって、なんだかおしゃれにゃるね!」


 でしょう? と、トルテは空いている手でほうきを持ち、柄の先をキッチンに向けた。


「トリート・コムメット・サルカラ! エーン!」


 唱えたトルテが指を鳴らすと、キッチンの奥にある暗がりから一つ、朝に持っていこうとした布袋と同じものが、宙を浮きながら現れた。


「さあニャル、出発するわよ!」


 玄関へ向かうトルテの掛け声に、ニャルが胸元で一つ鳴いた。

 助走をつけながら外への扉を開けたトルテはリズムよくジャンプ! 素早くほうきの柄をお尻の下にあてがうと、ほうきは高度を上げた!


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