2
トルテとニャルは、やって来た住人達から詳しい話を聞いた後、各々の畑を見回ることにした。
二人は住人達を連れ家を出る。
街路を外れ、森の中へ入った一行は、木々を縫うように歩いて間もなく、視界が開けた所に出てきた。
「これは……」
「ひどいにゃる……」
二人の目に飛び込んだのは、踏み荒らされた畑。そこから飛び散った土壌や潰された苗、無造作に散らかった形の分からない作物達が、二人に痛みを訴えかけてくる。
「ほれ、ここにあるじゃろう?」
言葉を失っていた二人に、住人の一人が声をかけてきた。その人が指す方向には猫に似た足跡があり、それは周りの至るところにつけられていた。
「確かにニャルの肉球に似てるわね。でもニャルのはこんなに大きくないし、もっと丸っこいわ――」
「っにやあっ!?」
トルテが語る横でニャルからぎゅう、と音がすると、軽快な発破音と共に煙が飛び出した!
「ひどいにゃるよトルテぇ」
ほどなくして、黒猫姿のニャルが煙から現れた。ニャルはトルテに長い尻尾を掴まれたまま地面に伏していた。
「だってあなた、こうやってとびっきり驚かさないと変化できないじゃない」
「だからって尻尾を掴まないでほしいにゃる!」
「これが嫌なら自分で変化できるようになりなさいよね」
尻尾から手を離したトルテは、うなって動かないニャルをひょいと抱き上げた。そうして、ニャルの足と畑の足跡を照らし合わせる。
足跡は、ニャルの足と段違いの大きさを誇っていた。
「トルテちゃんの言うとおりのようだねえ」
「だったら誰が俺達の畑を荒らしたんだ? このままじゃあ生活成り立たねえぞ」
「この街じゃあ、物々交換が全てだからねえ」
首をひねり続ける住人達を見かねたトルテが、それなら、と声を上げた。
「あなた達が作物を実らせるまでの間、私が作った砂糖で生計を立てるといいわ」
「ほ、本当か?」
「ええ。いつもお世話になってるから、是非力になりたいの」
「ニャルもにゃる! 皆のお野菜が食べられるようになるまで、出来ることがあれば何でもしたいにゃる!」
ニャルの発言に、偉いわね、と微笑みを浮かべたトルテは、ニャルの頭を撫でた。
「私達、あなた達の作物のおかげで毎朝心が満たされてるの――今日食べたサラダもとても美味しかったわ」
だから、と、住人達に向き直ったトルテは、静かに頭を下げた。
「お願い。私達に、あなた達のお手伝いをさせて」
「トルテちゃん! 顔を上げておくれ?」
「おぬしらの気持ちは充分伝わった!」
「しばらくの間世話になるが、この恩は必ず! 旨い野菜でお返しするぜ! な、皆!」
一人の問いかけに、住人達は力強く頷く。
「そうと決まったら、一旦私達の家に戻りましょう。そこで砂糖を手渡すわ」
こうして、ニャルの疑いを晴らしたトルテは、畑を荒らされた住人達に、自らが精製した砂糖を手渡していった。
手渡しが終わり、一段落した家の中で椅子に座るトルテは、食卓テーブルに広げた何かに印をつけていた。
黒猫のままのニャルが、トルテの手元を覗くため肩に乗る。トルテが凝視していたのは、この辺りの地図だった。
「いろんな所に印をつけたにゃるね」
「ええ。今来た人達が住んでいる場所に、こうやって印をつけてみたんだけど……」
トルテは唇を尖らせ、その上に筆をのせては頬杖をついた。ニャルが間近で顔を覗いてみるも、彼女は反応を示さない。
「トルテ! 考えてる事を教えるにゃる!」
お腹をトルテの肩に乗せ、前足をばたつかせながら騒ぐニャル。そんなニャルの首根っこをトルテは黙ってつまみ、床に置いた。
「んにゃあ! どうしてニャルに教えてくれないにゃる――」
その時、ぎゅるぎゅると、部屋中に響き渡るほどの音がした。それからトルテが、両手でお腹をおさえてみせる。
「トルテ、お腹が空いたにゃるね?」
声をかけられたトルテはニャルに振り向き、苦笑を浮かべた。
「……朝は野菜と玉子だけだったものね……無理もないわ」
トルテは上唇に乗せていた筆と地図を片手に席を立つと、床でのびているニャルを抱き上げた。
「朝に寄るはずだったパン屋さんで、ブランチ、とでもいきましょうか」
「ブランチって、なんだかおしゃれにゃるね!」
でしょう? と、トルテは空いている手でほうきを持ち、柄の先をキッチンに向けた。
「トリート・コムメット・サルカラ! エーン!」
唱えたトルテが指を鳴らすと、キッチンの奥にある暗がりから一つ、朝に持っていこうとした布袋と同じものが、宙を浮きながら現れた。
「さあニャル、出発するわよ!」
玄関へ向かうトルテの掛け声に、ニャルが胸元で一つ鳴いた。
助走をつけながら外への扉を開けたトルテはリズムよくジャンプ! 素早くほうきの柄をお尻の下にあてがうと、ほうきは高度を上げた!
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