第14話「【悲報】主人公、○○になる。」

2人の間に沈黙が降りた。それはまるで敵同士の様に互いの視線が絡み合う。


“嘘”だろ?


彼女の放った言葉の意味を理解しようと思考を捏ね繰り廻してみるも、思考の糸それは解けるどころか絡み合っていくばかりである。


俺は考えるのをやめ、徐に乾燥した咽喉のどへ唾液を押しやる。


「…黙り込む気かい?」


痺れを切らしたのかそう言って彼女は3人がけくらいのソファに深々と腰を下ろし足を組む。そして小脇のテーブルに置いてあった飲みかけのワイン瓶を手に取り其の儘嚥下した。それはそれは鮮やかな呑みっぷりである。

そして空になったワイン瓶を少々乱雑に置いた彼女は満足そうに口を開いた。


「…まあいいさ。アンタも背中には気をつけるんだな。どこで命狙われてっか分かったもんじゃねぇ。」


アンタに言われたくないという気持ちをなんとか心に留めつつ代わりに一言返事をすると、満足気に笑った。


「…アンタ、酒は好きかい?」


気分が乗ってきたのか本日2本目のワイン瓶のコルク栓を器用に開けながら問いかけてくる。


『えぇ…でもワインは得意ではなくて。』

「…そうかい。」


じゃあちょっと待ってな、とどこか少し寂しそうな顔をしながら奥へと消えていく。あれはあれで悪い人ではなさそうな気がする。

…知らんけど。


言われたまま大人しく待ってると、少しして戻ってきた彼女にコップに入った何かを差し出された。


『…これは?』

「緑茶さ。…安心しな、毒は入っちゃいねぇ。」


御礼を述べ1口緑茶を口に含むと忽ち緑茶の甘みが口中に広がってく。緑茶独特の苦味はなくさっぱりとした味わいで非常に飲みやすい。


『美味しい…。』

「そりゃあ良かった。…そういや、アンタどっから来たんだい?」

『スィルヴィーエからです。…旅をしていて』

「ふぅん…。…親御さんは?」

『…居ないです。…小さい頃に、亡くなりました。』って事にしとこう。間違ってはない、うん。

「…そうかい。」


そう言って徐に立ち上がった彼女は本棚へと身を運び、一冊の本を手に取るとこちらへ手渡してきた。聞けば“プレゼント”との事。

ふと表紙を見てみると、そこには〈ばかでもわかるおくすりのほん〉と記されていた。


なんともまあ分かりやすい罵詈雑言ですこと。


「ふっ…」


おう鼻で笑うなや。読めるか?と言わんばかりの顔でこちらを見るんじゃない。読めるわ!


『…ありがとうございます。有難く頂戴させて頂きます』

とは言えず恵比寿顔でそう謂った。


「あ、」

思い出したように彼女が言う。


『はい?』

その瞬間1本のナイフが壁に突き刺さった。…少し反応が遅ければ壁ではなく自分の身体に突き刺さっていただろう。俺の反射神経良杉田玄白よすぎたげんぱく


…にしても俺命狙われすぎてへん?今年命狙われたランキング1位取れそう。まあ…避けたからええんやけど…いや良くねぇよ!!!


「…後念の為戦闘技術も磨いてもらうように指導担当つけっから。」

『指導担当?』


すると後方から声が聞こえた。


「…チッ、外したか。」


振り向けば人影が2人扉の所にいるではありませんか。さらに扉は開いてある。…全く気づかんかった。よく見れば茶髪と白髪の2人の男性で、白髪の方が明らかに不機嫌な顔してるから多分あの人が投げた。絶対投げた。


「もうダメだよ〜?あの子ビックリしちゃってるじゃん!投げる時には投げるよって言わなきゃ〜」

そうそう…うん?


茶髪が白髪を宥めながら部屋の中へ入ってきて俺の前で立ち止まる2人。何このイケメン。顔整ってるし体格いいし茶髪の方めちゃんこ優しそう。羨ましい、寄越せ。


すると2人の内の茶髪の男性が

「ごめんね〜?大丈夫だった?あ、僕の名前はユーク!よろしくね」

と、手を差し伸べてきた。


美男でその上紳士ときた。もし俺が女だったら惚れてる。男だけど。

…いや俺ホモじゃねぇかんな??


『…ルカです。よろしくお願い致します。』

差し伸べられた手を握ったその瞬間耳を劈くような金属音が鳴り響く。…まあ軽く説明するともう1人の白髪の方が短剣で斬りかかって来たのだ。しかし、俺の反射神経がまじ神ってるおかげで何とか持ってた武器で対抗出来たって訳。すげぇやろ。惚れてええで。


「---チッ」

「もうっ、イフってば何やってんの!?」


“イフ”と呼ばれた白髪の男性が荒々しく短剣を納めつつ舌打ちをしながら壁に突き立ててあるナイフを取りに行った。やっぱあの人が投げたんだ。


茶髪の天使が少々狼狽えながら俺に話しかけてきた。

「ああっと…ごめんね〜?ああ見えるけど根は良い奴だから許してやって!ね?」

『あ…はい。』

「改めて自己紹介といこうかね。僕の名前はユーク!…一応遠距離戦闘部隊の隊長を務めてるんだ〜。んで、彼奴がイフ!彼は一応近接戦闘部隊の隊長をしてるよ!」

『あ…改めて、ルカと申します。軍医見習いとしてここへ配属になりました。戦闘は…一応出来ます。……よ、よろしくお願いします…』

「うん!よろしくねルカちゃん!」

『は、はい』


…ユークさん、めちゃんこええ人や…まじで俺が女やったら惚れてる。女やったr((大事なことなので((


いや誰がホモやねん。

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