第11話「ノエルの過去と忘れられた犬」

『…さて。本題に入ろう。

…まずは…君の事を教えてくれるか?

…ノエル。』

「う、うん。」



殴られて動けなくなってる犬を心配していたノエルは少し黙り込むと静かに話し始めた。



※※


ここは外れにある小さな島国。自然豊かで海も透き通った青色をしていた。


そこには小さな家があり、そこには少女とお婆さんが住んでいた。しがない身上ではあったが、それでも楽しく暮らしていた。


あるよく晴れた日の事、家付近にある花畑に座って花飾りを作る少女とそれを微笑ましく見ていた優しいお婆さん。

やがて歪な形をした花飾りを掲げながら笑顔を見せた少女にお婆さんは

「上手に出来たねぇ。ノエル。」


「うん!がんばったの!」

ノエル。


これは大切なお婆さんが名付けてくれた。


「わたしと…おばあさんは…」

『本当の…家族じゃ………ない…??』


「…!…うん、そうだよ。

わたしはと呼ばれるこどもだったの。道でおばあさんと出会ってから今までたいせつに育ててくれた。」


『…』

残酷な話の内容に絶句した。

そんな俺を無視してノエルは続ける。


「…わたしのほんとうのおとうさんと、おかあさんは…分からないの。

…もしかしたらかもしれない。」


孤児みなしごに、忌み子いみご…。

俺の想像を遥かに超える物語がそこには繰り広げられていた。


『…そうか。』

口から絞り出たのはたった一言だけだった。


「うん。…スッドおばさんに出会っていなかったら…もしかしたら…死んでいた…かも。」

そう言って悲しそうに笑う。


『…あんさ。』

「ん?」


『…その、島国とやらはどこにあるん?』

「……メディエリスだよ。」

『…うせやろ?』

「ほんとだよ。」


まじかよ…。

…それ俺がスパイとして潜入する国やん…。


『…私と共に来るか?』

「…え?でも…」

『私メディエリスに行くんよ。』

「ほんと!?」

『ああ。スッドおばさん?とやらにもまた会えるかもしれんで?』

「…スッドおばさんに…会え…る…?」

『せや、私が保証しよう。責任をもってメディエリスまで連れていく。』

「…えへへ、ありがとう。ノースさん!」

『ノースさんやなくて、お姉ちゃんって呼んでや。』

「うん!ノースおねぇちゃん!」

そう言ってノエルは満面の笑みを浮かべた。

やっぱ笑顔が可愛い子はええなぁ…。



漆黒の夜。

俺はノエルにあげる食いもんを探す為、1人食堂に来ていた。ハウンドにはノエルを護る為に留守番を頼んだ。


『これで充分やろ。』

食いもんをあるだけ詰めたリュックを背負い部屋へと踵を返す。




※※


一方。


「おねぇちゃん…おそいね」

「くぅーん…(いやほんまに。…何しとるんじゃ…)」

「えへへ、ハウンドさんすっごくもふもふしてる」

「わんっ!(そうじゃろう、そうじゃろう♪)」

「ふふふ」

そう言ってハウンドを撫でていると、部屋の扉が突然開いた。


「!?」

「おやぁ?見てみろよ、ロリだロリ!!」

「うっへぇ!最高!」


兵隊さんの格好した男が次々と部屋に入ってきた。ざっと4、5人は居る様だ。


「…だぁれ?」

恐る恐る問いかけてみても当然応えが返ってくる訳でもなく。

「ねえねえ、おにーさんと遊ぼ?」

「…いやだ、いやだ!」

「えぇ?遊ぼうよぉ」

「い、いやだ!いやだ!やめて!」


抵抗も虚しくノエルは引き摺られるように部屋の外へと連れ出されてしまった。ハウンドはずっと男共に咬み続けていたが、肉体的暴行を受け続けた身体はすっかり疲弊してしまっている。


そして男共は剣を構えて、こちらへと歩いてくる。

それを見たノエルの脳内にサイレンが響き渡る。“殺される”という危険信号のサイレンが。


「た、助けっ…!」

瞬時に男が剣を突きつける。

「っ…ひっ…」

「おっと、大人しくしろよ?暴れたり、叫んだりした瞬間てめぇを殺すかんな?」


その言葉を聞いて恐怖で腰が抜けへたり込んだノエルを見た男の口角が吊り上がった。




---その瞬間ときだった。







----ヒュンッ


「-っっ!!」


男の腕にナイフが突き刺さり後退ったその瞬間、何かが男の横を通過した。


「ぎ、ぎゃあああああああ!!」

痛みで泣き喚く男。





「う、うう…!!」

何故なら







「腕があぁぁぁぁあ…!!!?!?」

その男には腕が無かったから。



「ひっ……」


一部始終を間近で見ていた男共は全員恐怖で腰を抜かして尻餅をつく。


『なあ…?





ノエルに何しとるん?』


「おねぇちゃ…!」

『…すまん。来んのが遅れたわ。』

ノエルへと向かっていき頭を撫でる。


『怪我、ねぇか?』

「う、うん…!だいじょうぶよ…」

『ん、なら良かったわ。待ってな。


すぐ片付けっから。』

そう言うと男へと向き直り、血塗れのナイフを構え直す。


『応えろ。…何をした?』

もう一度、問いかける。


目尻を険しく吊り上げ、凄まじい怒りが眉の辺りに這いながら。



「ひ、ひぃっ…」


男達が夫々逃げようと身体の向きを慌ただしく変える。

『はぁ…』

其の姿は余りにも滑稽で最早笑いすら出てこない。寧ろため息が出てくる程だ。


言うまでもなく即座にナイフを数本投げつけ、逃げ場を失った男達に『無様だな。』と嘲笑する。


其の姿はまるで窮鼠の様。

…まあ、猫を噛まなければ良いのだが。

…悲鳴あげてっから可能性は低いか。


『…次は無ェ。首を斬り落としたるさかい。…分かったらとっとと失せな。』

「す、すす、すみませんでしたぁぁ!!」

男達は泣きながらそそくさと退散していった。



『…謝るんなら最初からすんなよ。』

敢えて追う事はしない。

またノエルに怖い思いはさせたくない。

無事に送り届けるまではもう二度と離れないと決意した。


『ったく…』

溜息つきながらしゃがみ込んで投げたナイフを拾っていると背中に暖かいものが当たる。


…ノエルだ。


後ろから抱きついてきた。

「……あり、…が…と、おね…ちゃ…」

泣きながらお礼を述べるノエルの身体はまだ少し震えていた。

きっと凄く怖い思いをしただろう。

…申し訳ない事したわ。



『…ごめんな。もう大丈夫だ。』

「……うん…ありがと…」


抱きつかれたままで頭を撫でてやっていると、「…くーん。」

何処からか犬の鳴き声がした。


せやったわ。ジジィハウンドおったん忘れとったわ。

「わん(おい)」

すまんて。許せ。


直ぐ様ノエルを連れてジジィの元へと部屋の中へ入る。


『お前も派手にやられたな。…でもノエル護ってくれてあんがとな。』


今手当すっからな、と救急箱を取り出し応急処置を施す。

珍しく力なく鳴いた犬に俺は安心させようと微笑みを口元に湛えた。


おいおい…そんな弱気になんなって。大丈夫だ。俺が居んだろ?

少し休んでな。


「くぅ…ん(そう…じゃのぅ…)」

そう言ったジジィは笑みを浮かべたように見えたかと思うとそのまま眠った。

ノエルは心配していたがただ寝てるだけだと伝えそのままベッドへと向かい休ませた。



『急ではあるが…早速メディエリスへ向かおう。』

「…!」

『その為にも食料は確保してある。』

そう言って未だに背負ってるリュックを親指で指差す。


『準備は明日にして今はゆっくり休みな。…私は少しやる事やってから寝るよ。』

「うん…分かった。おやすみなさい。」

『ああ、おやすみ。』


疲れからかぐっすり眠った2人を見て眠くなってきた俺は、確りと戸締りをしてから眠りについた。

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