花瓶 (お題:花瓶・造花・幽霊)
「私を造花にして」
あの言葉が今でも僕の
若かりし頃の記憶。
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その日の僕は学校帰りに、入院したおばあちゃんのお
病室でのおばあちゃんは思いの
小一時間ほどおばあちゃんと話した僕は「また明日も寄るから」と言って病室を出た。
窓の向こうからは早くも夕に染まった光が差し込んでおり、長く静かな
あまり変わらない風景と無駄に
そんな時だった。休憩スペースの一角、僕と同年代の少女が一人、ソファーに座ったまま
そしてその時の僕は、そう思っただけでは
今思い返してみても、内気な僕が何故そのような行動に出たのかは分からない。
院内の
少なくとも誰かと一緒に来ていれば気にすらしていなかった光景だろう。
僕が彼女に「はじめまして」と声を掛けると、彼女は
その後、彼女の
彼女は
それからは互いの話をした。初めは僕がどうして此処へ訪れたのかを話し、次は彼女が此処にいる理由を話してくれた。
終始、事務的な反応。
半分ムキになって来た僕は彼女の興味を惹く為、様々な話題を振る。
とは言っても、子どもの話題だ。家族がどうだの、学校がどうだのと
時たま
「じゃあそろそろ帰るね」
……とうとう、彼女の楽しそうな表情を見る事は叶わなかった。
「私の部屋は402だから」
彼女はそれだけ言うと、去っていった。
そこは「またね」とか「じゃあね」とかではないのかと首をかしげる。
しかし彼女には明日も来ることを伝えてはいたので、まぁ、いいか。と流して
それからは、おばあちゃんのお見舞いもそこそこに、毎日の様に彼女と会って話をした。
本当にくだらない話だ。毒にも薬にもならないような話を、それこそ暗くなるまでずっとしていたり、漫画や小説を貸しあって一日中読んでいることもあった。
当然と言うべきか、それだけしつこくしていて拒絶されないと言う事は、彼女にも、僕を受け入れる用意があったようで。
次第に、表情も、口数も、抑揚も増えて行って……。
そんなある日の事。
彼女の病室でいつも通りくだらない話をしていると、ふと、彼女の病室に
そこには美しい
「造花はいいよね。いつまでも
特に何かを考えて発言したわけではない。今までのどうでも良い話が
「私は
彼女は
今までにないほどの
そう言い放った本人も驚いている様子でしばしの間、
先に視線をそらしたのは彼女だった。
俯いた彼女の口からは「帰って」と小さな声が発せられる。
それだけで僕は
どうにか家にたどり着き、ご飯を食べ、お風呂に入った後も、僕の頭の中どうすれば彼女に
許してもらうにはまず怒りの原因を探って
何か思い当たる節はないか頭の中をかき回した。
あの造花は僕があの病室に行く前からあったものだ。
彼女が造花を嫌っていながら捨てずにずっと置いてあるという事はきっと捨てられないものなのだろう。
嫌っていても捨てられないもの。例えば
彼女は長らく入院しているのだから、誰かがお見舞いに来て見舞いの品を置いて行ってもおかしくはない。
……いや、そもそもこれほど長く彼女と一緒にいるにもかかわらず、見舞いはおろか、僕は一度も彼女が誰かと話しているところを見たことがなかった。
造花はいつまでも綺麗だ。
……じゃああの造花はいったいいつの物なのだろう。
僕は家を飛び出した。走って、走って、走った。
外はもう真っ暗で、病室になんて入れて貰える訳も無いのに彼女の下に向けて走った。
息も
丁度外に面していた一階の窓が開けっ放しになっているのをみつけると、そこから病院内に
途中、誰にも見つかることなく彼女の病室まで辿り着くと、彼女は泣いていた。
僕が
僕は急いで彼女の下に駆け寄ると何度も謝罪した。
これからは僕が一緒にいるからと告白めいた言葉を
それからは彼女ともっといろいろな話をした。病気が治ったらここに行こうとか、この服が
そんな病気ならずっと治らなければいいのに。僕はそう思った。
「私、造花を作りたいの」
ある日会話の
この頃彼女はぼーっとする事が多くなってきていて、ベッドの上から動く
僕は少し
僕は翌日、造花の材料を買い集めると彼女の下に向かった。
僕も造花を作るのは初めてだったので、本を見ながら作ったが、中々、上手くは行かず。
正直、鼻をかんだティシュと大差ないという
打って変わって彼女はと言うと数回作っただけでしっかりと花の形になっていた。
それでも気に入らないのか何度も作り直したり、様々な形状の造花に挑戦している様はとても生き生きとしていて、
そんな事を続けて数日、やっと僕も花と呼べる代物が作れるようになり、彼女はもう、
そんな彼女への
ちょっとしたサプライズだ。
僕は造花づくりに夢中になっている彼女に
しかし彼女はそれを
彼女が手を離すと左の薬指には彼女が作ったであろう造花の指輪がはまっていた。
彼女は
「完敗だよ」と、言いつつも彼女の
「ありゃ?」掴んだと思ったのだが
なにも避けることないじゃないか。と反抗心むき出しで
お互いに指輪をはめ満足した僕は時間も時間なので片づけを始めた。
彼女も一緒に片付け始めるが、何度か物を取り落として「今日は調子が悪いのかな」と笑っていた。
やはり元気そうにしていても病状は悪化する一方のようだった。
僕は「お大事に」と声を掛け病室を後にする。
不安で押しつぶされそうな胸も指輪を撫でればいくらか軽くなった気がした。
そして次の日。その病室に彼女はいなかった。
ベッドの上には手紙と指輪、花冠が置かれていた。
手紙には短く一言だけ。
「私を造花にして」
僕は彼女を探した。考えうる場所全てを探した。
廊下、踊り場、屋上、病室。彼女は何処にもいなかった。
その後、おばあちゃんは何事もなく退院した。運動をよくするように。とお医者さんにきつく言い含められていた事を覚えている。
それから暫く、僕はあの病院に近づく事はなかった。
思い出しても辛くなるだけだから。
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そうして僕は今日と言う日を
「あなた!はやく!」
彼女が呼んでいる。もう行かなくては。
今日も造花は美しいままだった。
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※おっさん。の小話
今回は読者様が作るお話です。
病院の女の子が幽霊なのか、生きている人なのか。
主人公を最後に呼んだ「彼女」は何者なのか。
もしかしたら、お話に出てくる女の子ととは別の人と結ばれて、彼女を美しい記憶に留めたのかもしれない。
病気が治った少女と再会したのかもしれない。
はたまた、死後、三途の川の向こうで彼女が呼んでいるのかもしれない。
そんな、読者に想像を掻き立てるお話です。
貴方様なりの解釈で良いですよ。
因みに「花瓶」は「造花」を飾る心の器です。
なんで花瓶なんだ?と思われたかもしれないので、一言でした。
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