第14話 概念武装
「……ん」
目をこすりながら体を起こすクロウ。ぼんやりとしていて今いちはっきりしないが、時折揺れたり、「ドゴーン」「バガーン」と頻繁に鳴り響く爆発音によって、徐々に意識がはっきりしてくる。流石に看過できない。
「……なんなん? これ。大丈夫なん?」
「おぉ、起きたかクロウ君。どうじゃ? 具合は」
「えっと……」
えべっさんの気遣いに、クロウは自分の体の様子を確認する。自分の体に悪さをしていたであろう魔力の蠢きは鳴りを潜め、ゆっくりとではあるが自分の思い通りに動かせるようになっていた。魔力の欠乏によるだるさも幾分か緩和されているようだ。
「まだちょっとだるさは残ってるけど、魔力はちょいちょい動かせるわ」
「そりゃあよかったわい。うまくなじませることが出来たようじゃの」
「ほっほ」と恵比須顔で笑うえべっさん。断じてダジャレではない。
そこへシャモンが乗っかってきた。
「ならクロウ坊。さっきも言ったが今が非常事態だというのは認識しているな」
「……さすがに爆発しとるしな。ここが日本じゃないって言われても信じられるで」
「残念だが、ここは日本だ。間違いなくな」
「……ホンマかいな」
異世界送還からの神様のじっちゃん、魔力に魔術と知らないことが多いなと思っていたクロウだが、さすがに日本国内でこんな爆発が起こるような出来事をクロウは知らない。そんな出来事は主に外国の宗教がらみがメインである。こんないわくつきの樹海を、爆破とか罰当たりなことをして喜ぶのがいったいどんな層なのか、まるでイメージがわいてこないクロウ。さらにシャモンの追撃が入る。
「お前にとっては残念だろうが、まぎれもなくお前の暮らしていた日本での出来事だ」
「もうこんなんテロやん」
「言いえて妙だな」
「何がやねん」
思わずツッコミが入るクロウ。しかしそれをスルーし、シャモンは自分の言いたいことを言ってしまうことにしたらしい。
「とにかくどうにかしないとまずい」
「もう何が言いたいのかが分からん」
ふわっとしすぎて、まずいことしかわからない。あまりにもあんまりな説明だったので、弁天が話に割り込んできた。そしてアイデアを1つ。
「クロウちゃん。『概念武装』を作りましょう」
「がいねんぶそう?」
今度はいきなり核心へ抉りこんできたので、これまた困惑した。
「クロウちゃん。あたしたちの持ってるものを見て、口にしてくれる?」
「え? ええっと……弁天様の琵琶とえべっさんの釣竿、ダイコクとホテイの袋に……ダイコクの打ち出の小槌。後は……シャモンの槍?「鉾だ」あぁ、そう……鉾と反対の手に持ってんの何? え? 宝塔? JUROは何やそのうちわみたいの……軍配? 福さんは……なんや杖? と巻物か? そんくらいかな……」
弁天が何を言いたいのかが分からないが、とりあえず目に見えるものを口にしてみたクロウ。
うんうんと頷き弁天は、説明を続ける。
「概念武装というのはね、あたしたちが持っている『象徴』を契約者の魔力と対象者の神力で作り出すものなの」
「???」
クロウにはいまいちよくわからなかった。なので弁天にわからないことを聞くことに。
「象徴って、みんなが持ってる道具のこと?」
「そう」
分かってくれてうれしいとばかりにニコニコする弁天。なんだか気恥ずかしくなるクロウ。続けてあやふやなことを聞いていく。
「契約者と対象者って俺と七福神のこと?」
「そう。なんだクロウちゃん。しっかり理解してるじゃない」
両手を合わせこれでもかと恵比須顔。七福神だけに。
「魔力と神力を合わせてって……」
神力というのは、神様が持っている力のことだと説明を受ける。まんまやなとクロウは思ったが、口には出さなかった。
弁天の説明は続く。
「正確に言えばね、象徴そのものを生み出すことはできないの。クロウちゃんが思った性能が付与されるのね」
自分が七福の象徴を見てどんなイメージを描くかで、概念武装の能力は変わるようだ、とクロウは認識した。
「とりあえずだ、クロウ坊。武器を創造することを勧めたい」
シャモンのイチオシは武器のようだ。なぜか思い浮かばないクロウは素直に訊ねた。
「なんでや?」
「あまりトリッキーなものだと、扱いに苦労するからな。こんな爆発が起こるような場所で、考えながらじゃないと扱えないようなものは、下手すりゃ死んじまう」
シャモンが至極まっとうなことを言ってきた。そこへダイコクがわりとシリアスな顔で言い寄ってくる。
「この中で武器になりそうなもんと言えば、俺の小槌とシャモンの鉾だろ。どっちがいい?」
いつの間にか二択を迫られているクロウだが、確かに見ただけで扱いが分かりそうなのはその二つだけのようだ。釣竿も琵琶も袋も扱いに悩みそうである。杖と軍配は一旦置いておく。
「なんでだYo!」という外野は無視だ。この二つのうちどちらにするかクロウは悩む……までもなく選択した。
「小槌で」
「……理由は?」
鉾が選ばれなかったせいか、シャモンがドアップで理由を迫る。両手で押し返しながらクロウは理由を説明した。
「確かに向こうではいっぱい人斬ったけどな。こっちでは綺麗な体やねん。やらないかん場合にためらうつもりはないけど、やらんでええ時にわざわざ殺しなんかしたない」
小槌に関しては叩いたものが、金銀財宝に代わるみたいなイメージがあるが、鬼神の持ってる鉾なんか、ただただ殺戮に使うとしか思えない。
そう伝えると、「むぅ……」とシャモンは唸る。両腕を組み、考え込み始めた。
一方で自分の象徴を選ばれたダイコクはにっこにこである。
「はっは! じゃあ俺の小槌を概念で固めるか。じゃあクロウよ。俺の小槌を見てどう思う?」
ここでディスカッションをするらしい。小槌を見て思い浮かぶことをクロウはつらつらと語り始める。
「ええと……まずは……相手の生死を選べるとかかな」
「うん? どういうこった?」
クロウが思い浮かべたのは、都市の狩人の相棒の1○tハンマーだ。あんな重量を持つハンマーで殴られてもケロリとしているあのイメージ。そんなのが小槌を見て浮かんだのである。……ハンマーではないが。
「ほぉ……そんなのがあるのか」
「架空の話やけどな。ただ殴る以外やったらそんなんが浮かんだ」
「なるほどな……他にはあるか?」
「え? 他?」
1つしかこめられないと思っていたクロウは戸惑った。対しダイコクは、当たり前だろと言った顔で説明を始める。顔のわりに丁寧な神である。
「そりゃそうだろ。概念武装は一度作ってしまえばよほどのことがない限り、同じ象徴で生み出すことが出来ねえ。魔力もごっそり持っていかれるし、できるかどうかは別として、思いつくこと出せ。まぁ今のお前ならいいとこ二つくらいくっつけられるだろ。『生死を選択できる』ともう一つくらいなんかあんだろ。想像を膨らませろ」
「想像……」
打ち出の小槌を見て浮かぶ想像なんて一つしかなかった。
「それで叩いたら、叩かれたやつが金銀財宝になる、とか」
振れば出てくる金銀財宝というイメージもあったが、叩いたらそれが変化するというほうがイメージとしては強い。
「ほぉ……それはなかなかのもんだが、さすがに行きすぎだな」
「行きすぎ?」
なんでも付与できるのかと思えば、それはムリだとダイコクは言う。何でと聞く前にダイコクは説明を始めた。ひょっとしたら説明好きなのかもしれない。
「叩いたものが、きらびやかな財宝になるってのは神の御業の領域だ。さすがにそんな概念は付与できない」
「ほんなら、それは却下ってことか?」
「そうじゃない。精々が『変質』といったところだろ」
要は叩いたものが何かに代わるという概念は付与できるようだ。ただし、叩いたものにまつわるもののみだが。地面を叩けば穴が掘れたり、木を叩けば枝が伸びたり。水を叩けば何かを起こせたり。
「……それもとんでもなくない?」
「財宝には変わらんからなぁ。デチューンもデチューンだぞ」
ダイコクにとってはデチューンだろうが、かなりの応用が利きそうな感じがクロウはした。
「ほんならその『変質』と『生死選択』が付与できるん?」
「あぁ。それぐらいならいける。それでいいか?」
「切羽詰まってるし、それでいこう。ほんならどうしたらいい?」
「クロウは魔力の提供だけしてくれればいい。あとはこっちでやる」
どうすんねん? と聞く前に、緑色のクロウの魔力がダイコクへと流れていく。今度は気を失うほどの魔力は吸われていないようだ。体調が悪くなる様子はない。
ダイコクは何やら神々しい感じでぶつぶつ言っている。おそらくは呪文だ。
『我と汝が紡ぎし力 汝が願を形とし
割と簡単な呪文を唱え終えたダイコクの前に、一つの小さな鎚が現れた。妙にきらびやかでなおかつ厳かで。しかし下品ではない。太鼓のような打撃面を両面に付け、その中心部を取っ手が貫く。取っ手の先は尖っており、突き刺すこともできそうだ。逆の尻の部分はちゃらちゃらとした八面体のアクセサリーのようなものがぶら下がっている。白を基調とし、金や青の細工が施された、誰が見ても間違いない逸品が顕界していた。明らかに西洋風である。
「うぉぉぉ……」
「どうだ? いい感じだろ?」
「これが俺とダイコクの概念武装……」
「大事に使えなんて言わねえよ。殴ろうが何しようが好きにしろ。普段はどんだけ殴っても、ギリギリ生きた状態を保てる。好きなだけ殴れ」
とんでもないことを言うダイコクだが、考え方によっては相手を死なせることを気にせず思い切りいけるので、クロウの願いに沿った武装と言えた。
「……触ってええの?」
「コイツはお前のもんだ。好きにしていい。だが、一応俺も神だからな。あまり非道なことに使わないでほしいと思う」
「いや、非道なことしようと思ってんねやったら、生きる選択肢は与えんやろ」
「いや……どんだけ殴っても生きてるってある意味残酷すぎるぞ。痛みは感じてるんだからな」
「……せやろか?」
「お前ちょっと感覚がおかしくなってるな。気を付けろよ」
どれだけ殴っても死なないということは、無制限に殴り続けられるということと同意である。それはもはや拷問だと言われ、本質に気付かされたクロウは「えらいもん作ってもうた……」と完成した後で戦慄した。
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