第13話 アマテラス強襲
「何事だ!」
かなり大きな和室で、今後のクロウに対する態度を検討していたアマテラスの面々は、突然の爆発音に戸惑いを見せた。
それらを代表して声を上げたのは、クロウを捕らえた美丈夫にいくつかひげを足したような容貌の男。
天塚 涙の父『天塚
和室へ見張りを担当していた者が飛び込んできた。
「襲撃です! 蛇神が! 妖魔を率いて!」
「チッ……! 涙はどうした!」
この場にいない涙を訝しんだ豪は、大きな声で涙の所在を確認する。和室に集まった勇士たちではなく飛び込んできた見張りが答えた。
「涙様はすでに戦場へと駆けつけ交戦中! すぐに援護へ向かわないと……」
「分かっておる! この場にいる勇士たちよ! 迎え撃て! 決して『雫』の元へ通してはならん! 急ぎ涙を援護するのだ!」
「「「ハッ!!!」」」
豪の檄に威勢良く返事をした勇士たちは、刀を携え表へと急ぎ出て行く。一方残った豪は、
「……あの少年ではなかったのか?」
アマテラスが縄張りを主張する、龍脈の力が噴き出す場所『龍穴』。ちょうどクロウが七福たちと契約をした場所であり、神様のじっちゃん『ヤハウェ』主導で、日本中から流れを捻じ曲げ集まるように細工したその地は、日本随一の聖域となっていた。そんなところで怪しげ(他から見れば)な儀式をしている者がいれば、当然「何者だ!」案件となってしまうのも仕方のない事だった。
もちろんアマテラス側にも事情はある。
アマテラスには尋常ではない存在が、奥の院にひっそりとたたずむ。
『天塚
ただただ尋常ではない霊力を持って生まれたが故に、狙われ続ける不憫な少女。天塚 涙の二卵性の双子の妹である。
アマテラスは元々『天照』という日本屈指の結社の一部署の人員であった。しかし、とある理由によって、雫の霊力に目を付けられてしまった。
―――『贄』とするために。
これに異を唱えた天塚家ではあったが、贄としての品質が最高であったために、その訴えは天塚家以外の賛成によって却下された。
だからといって家族を生贄にすると言われ「わかりました」というほど、天塚家は冷たい一家ではなかった。むしろ家族のためなら命すら投げ出すような激情家ばかりであったため、天塚家は『天照』より離脱。
もともと『天照』に所属する者たちは、エリート意識が強く力のない者を見下す風潮があったが、天塚家の人間は『人』として当たり前の対応をする異端であった。そういった当たり前の感情に触れた者たちは、軒並み天塚家と共に『天照』を抜けて、共に富士の樹海へと隠れ住むようになった。そこでたまたま龍穴を見つけることになったのだ。そこへ社を建設し、己がものとしたまでは良かったのだが……
「蛇神……」
どういうわけかアマテラスを敵視し、秘中の秘である『雫』を狙う神。
神は本来、地上に現れることはないはずなのに、はっきりと顕現しているという事実。
『最重要容疑者』を捕獲しているというのに、現れて暴れているという事実。
最重要容疑者を、取り返しに来たという可能性もある。それなら辻褄も合う。
「とにかく雫の安否を確認せねばならん」
豪は雫の元へと向かう。共にいる当主『ハル』への報告と共に。
「おばあさま。何事でしょうか?」
「……どうせまた蛇神がやって来たのじゃろ」
「雫ちゃん……おかあさまにも聞いてくれない?」
「おかあさまはどうせ、なにもわからないではありませんか」
「ちょっと、ひどくない!?」
―――奥の院
アマテラス秘中の秘である『雫』が幽閉されている場所である。その両隣に祖母『ハル』と母『鈴鹿』が母娘3代で詰めていた。
女三人寄れば姦しいと言うが……
「豪のやつは、『下手人は捕らえましたぞ!』とか言っておったが……」
「どうせパパはまたやらかしたんですよ。無実の人を下手人とか言って」
「……お兄様のほうが可能性はありそうですが」
天塚家の男性陣の評価は極めて低かった。ひげのくせに『パパ』扱いなのは夫婦が円満である証拠か。ちなみに豪の評価がダダ下がりなのは、マエがあるからである。
なお、今回も女性陣の評価は極めて正しかった。クロウはじっちゃんに言われて龍穴で儀式をしただけであり、明確な意図があったわけではない。とりあえず捕らえよという命令は命令は豪が下し、実行は涙が行ったので全くもって正しいと言わざるを得ない。
ちなみに祖父は『
「なら、この爆発は蛇神の仕業かしら?」
「おそらくそうじゃろう。どうせまた雫をよこせとか言いだすんではなかろうかな」
「……芸がありませんね」
三者三様ため息をつく。
―――天塚 ハル
現天塚家の当主『豪』の母であり、家の中ではNo.2というのが表向きではあるが、実際には当主同然の扱いであり、豪も勇士たちも特に異論はないようである。『光』の術者としては驚異的。
―――天塚 鈴鹿
現当主『豪』の嫁であり、関西地区の大手結社『伊勢神宮』の大物幹部の娘。もちろんつながりは『天照』である。
大物幹部の思惑とは裏腹に、母体を離脱していることはまだ知られていないようである。流れ的に『光』の術に適性があるが、本人は長刀を振り回す方が好きな武闘派。勉強嫌いである。
―――天塚 雫
豪と鈴鹿の娘であり、双子の兄に『涙』がいる。『涙と雫ってなんかかっこよくね?』という大変厳しい意見の果てに付けられた名前だが、本人は案外気に入っている。
生まれながらに宿した霊力が過剰すぎるためか、既存の術が一切使えない。その上、過剰な霊力が悪さしているのかやや体が虚弱。奥に囲われているのではなく、囲わざるを得ないというのが正しい認識である。
やれやれ感が奥の院を支配し始めるが、そこへ飛び込んできたのが豪。「雫っ、無事か!?」とか言いながら入ってきた。
渋々……本当に渋々返事をする雫。
「……大丈夫ですよ。おとうさまが下手人を捕らえてくれたおかげで、気持ちはとても安らかです。この爆発が何なのかは知りませんが……」
「ぐはっ」
豪は胸を押さえ悶える。悪意の感じられない言葉が豪の胸を抉ってくる。もちろん雫はわざと言っている。
「お前はまたやらかしたんじゃないのか?」
と。
さらに追い打ちをかけるハル。
「豪や」
「は、はいっ」
声が裏返ってしまった豪。完全に浮き足立っている。和室でのカリスマなど見る影もない。
「お前さっき、意気揚々と『下手人を捕らえました! これで雫は安心ですぞ!』とか言ってなかったかい?」
「ぬぐぅっ」
豪は膝をついた。ダメージはでかそうだ。何だかプルプルしている。しかし、ここにはもう一人いる。感情の見えない声で豪に問いかけた。
「ねえ、パパ」
「な、何だろうか……?」
プルプルしている体の力を振り絞り、顔を上げて愛しい奥様の顔を必死に見つめる豪。それに対して、鈴鹿の顔は非常に冷たい。
「……また、やらかしたんじゃない? 今、牢に放り込んでる子、本当に下手人なの?」
豪に、明確な答えは存在しなかった。
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