第12話 牢屋
「おら! ここに入ってろ!」
目隠しをされているクロウには何も見えていないが、格子をくぐらされ背中を突き飛ばされた。倒れ込んだ先には砂の感触。擦れて顔が痛いクロウ。その拍子に目隠しがズレ右目が解放された。
「……どう見ても牢屋やな」
「そうじゃな」
「……」
声のする方を見ると、宙にふよふよ浮いているえべっさんその他。返事をしたのはえべっさんのようである。
「……おったん?」
「おったよ。ずぅ~っと」
「……助けてぇな」
「ムリじゃよ。わしら現世のもんには触れんし」
「え?」
「不思議に思わんかったか? あやつらがわしらを見て全然反応しないことに。普通こんなのがおったら、びっくりするじゃろ」
「……まぁ」
新生児サイズの老人。しかも浮いているのだ。騒ぎにならないはずがない。市井に出ればスマホを向けられることうけあいである。しかし、しっくりくる説明がかっちりと心にハマったところで、今の問題が解決するわけではない。
会ったこともない知らない人たちに、拉致監禁されているという事実は変わらない。
「ホンマ、どうしようかなぁ……」
クロウは途方に暮れた。
―――某所にて
「ちっ。アマテラスの連中、こっちの要求を無視しやがって……」
電気もつけず真っ暗闇の中でさらにローブを着て、更にフードをかぶり全く誰だかわからない。声質から男だということが分かるだけである。言葉から察するにどこかに何やら要求していたようだが……
「しょうがねえ。『
フードの男がどこかへと声を掛けると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「……ンだよ」
「仕事だよ。ちゃっちゃと働けや」
「チッ……いい気になるんじゃねえぞ、くそが」
傲慢に命令を下すフードの男に対し、姿の見えない『夜刀神』は、不機嫌そうに悪態をつく。というか普通に不機嫌である。
ピクリとフードの男は動きを止める。そしてごそごそと何やら懐から取り出すと、これまたどこから取り出したのか、割と大きめな針でその何かを貫いた。
「ッガァァァアアァッ!!」
ドタンバタンと暴れるような音がしたと思えば、「フー、フー」といった荒い息遣いも聞こえる。
「おい、立場わきまえろや。お前は俺に呪いで縛られてんだぜ? 俺に逆らえばどうなるかそろそろ分かれや」
ケタケタ嗤うフードの男に、歯噛みする夜刀神。
「たかが蛇の分際で、俺様に逆らおうなんて生意気なんだよ。俺の呪いは神にすら通用するんだ! いずれは格の高い神を呪いで使役してやるぜ! それで俺を認めさせるんだ!」
「……お前なんかにできるわけねえだろ、この三下が」
ヤバいとび方をしているのか、夜刀神のつぶやきがフードの男に聞こえることはなかった。
いったい誰に認めさせようとしているのか? それはフードの男にしかわからないことだった。
―――場面は戻って、クロウ達へ
「とりあえずクロウ君や。今が一応非常時だってことはわかるじゃろ?」
「腕を縄で括られてて腰にも縄が付いてんのに、これが非常時じゃないって言われたら流石に困惑するで」
当たり前のことをえべっさんに言われ、しんどいながらも軽口で返すクロウ。壁に背を預け、体力の回復に努めている。常識外れの魔力の減退に、体力も魔力も精神力もギリギリである。
「クロウちゃん。すぐに術は使えないってことはわかるわね?」
「そりゃあ、まぁ……」
弁天に聞かれ、しぶしぶではあるが納得するクロウ。いまだ自分の意思を無視して蠢く魔力に、意思を乗せることはできていない。はっきり言って、普通の病人と何も変わらない。
そこへダイコクが乗っかってくる。
「なら、何ができるんだ? ってことだな」
「まぁ……そうやな」
七福神で思いつくことなんて、『運がよさそう』というだけである。じっちゃんが言うには、魔術が使えるという話だったがどうも今はムリのようだ。
「今できることは……寝ることだな」
ダイコクは凄くまじめな顔でそう言った。クロウは耳がおかしくなったのかなと思いもう一度聞いたが、一言一句違わずに同じことを言ったダイコク。
「ホンマにそれだけなん?」
「当然だろう。今のお前に何言ったって何にもできねえよ。とにかく魔力のならしは儀式の時にやったから、あとは体調を整えて循環するようになるまで待つしかねえ」
ただの異物でしかなかった魔力を、契約する時の流れでうまく調整してくれたようだ。向こうの魔法は使えないが、ちゃんと学べばこちらの魔術が使えるようになるらしい。
「だから今のお前にできるのは、起きて耐えることじゃなくて、寝て回復することだけなんだ」
「さっきえべっさんが非常時って言うてたやん」
「だから何度も言ってるけど、お前にできることなんかなんもねえだろ? ごちゃごちゃ言わねえで横になって目つぶれ」
そう言うとダイコクはゲシッとクロウの背中を蹴り、無理矢理横にした。
「いっ……そんなんせんでも1人でできるって……」
顔をしかめ愚痴りながらも、言われた通り目をつぶったクロウだが、樹海を歩いて来たり、刃物を突きつけられたり、軟禁されたりと、なかなかな夏休み(自主的)初日で疲れてしまったのか、すぐに寝息をたてはじめた。
「……やっと寝たか」
ダイコクはぽそりとつぶやいた。しかしその顔は優しい。
「ムリをさせてしまったからの」
「これぐらいでだらしないぜ」
「そういうことを言うんじゃないよ、シャモン」
申し訳なさそうなえべっさん。体育会系の先輩のようなことを言うシャモン。窘める弁天。
「ワシが付いとるから早々死にはせんと思うが、何を呼び寄せるか分からんからのう」
「厄介ごとなら俺が払ってやるZe」
「……今のところクロウが腹を立てる予定がなさそうやな」
福さんは、良縁につながる出来事を引き寄せる運を司り、JUROは引き寄せた厄を払う力がある。セットで利用できれば、必ず良縁に恵まれるはずだ。つまり、この厄介ごと自体が良縁につながる可能性をはらんでいる。ホテイだけが今のところ出番なしだ。そもそもクロウが怒るほどの何かが今のところこの場に存在しない。強いて言えば、今起こっている監禁に対する理不尽くらいだろうか。
七福たちは、クロウの体調が整った時にできることを模索し始める。
「すぐに使えそうなものと言えば……」
「そりゃあ、あたしらが持ってる神器だね。クロウちゃん用に改修しないといけないけども」
―――えべっさんの釣竿
―――ダイコクの打ち出の小槌
―――弁天の琵琶
―――シャモンの鉾
以上の4つがすぐに使えそうな神器である。
別に、彼らが持っているものをそのまま渡すわけではない。神力が宿る神器を新たにクロウの魔力と混ぜ合わせて生み出すのである。状況にもよるが、おそらく一つがいい所だろう。
「問題はどれにするかだが……」
シャモンが悩ましくそんなことを言うと、「ドォォォォンッ!!!」という爆発音が聞こえ、牢がわずかに揺れ動いた。
「始まっちまったか……」
ダイコクがクールにそう呟いたが、コトが起こるなんて誰も思ってなかった。
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