第2話 魔法が使えない!?

 2018・10・11 改稿


 クロウは向こうから帰ってくるとき、おじいちゃんみたいな神様と約束した。


「向こうで身に着けた魔力そのままで、地球に帰りたい」と。


「そんなんでいいんかの?」特に考えるようなそぶりもなく、持ってた杖をぴかっと光らせて「じゃあの」と挨拶も軽く終え、クロウの意識は途切れたのだ。


 クロウは掌を集中させる。ふわあああと青いような白いような光が手から浮かび上がる。


「よし! よーし! ちゃんと約束守ってくれたやん。これで魔法が使えるで!」


 異世界での魔法は、レトロRPGのように名前を言えば即発動。時代が進んだゲージ付きのものではない。どんな大魔法も即座にぶっ放せるお手軽使用であった。ただし、魔書を読む必要がありそれをしないと自分の目で見たことのある魔法であっても発動しないという、お手軽でない面もあったが。クロウは調子に乗って、読める魔書は全て読みつくしてきたのだ。

『魔法をそのまま使えるようにしてほしい』ではなく、『魔力をそのままにしてほしい』にしたのも理由があった。覚えた魔法をそのまま使えるのはもはやクロウの中では必定。魔書を読めば覚えられるのだし、現実覚えたのだから。しかしなんとなく地球には、魔力が乏しいイメージがクロウの中にはあった。魔法が使えても魔力に乏しければ、バンバン使えない。だからご褒美に魔力を願ったのだ。


「火……はあかんな。火事になるかもしらんし。水……もやな。PCずぶ濡れなったら目も当てられん。土……掃除が大変やし……」


「風やな」と消去法でいくと、現実一択しかない属性の魔法を使うことにした。


「ウィンドボール!」


 足を肩幅ぐらいに広げて立ち、半身になり、右手を壁に向けてまっすぐ伸ばすポーズをとった。高校生で厨二をこじらせ、とても痛々しい姿で、魔法名を叫んだ。


 ……………


「あれっ?」


 クロウは不思議に思った。魔法が発動しない。魔力はある。魔法は覚えたはず。……なんでだろう? ポーズを解きベッドに横になる。なんでかなと思考をめぐらそうとすると、突然ディスプレイのようなものが空中に浮かび、見覚えのある爺様がにこやかにあいさつしてきた。


「ハロー! ワシ神じゃけど。おぉ! クロウ君、ちゃんと戻れたようじゃの!」


 確認したかったのか、神様のおじいちゃんが突然連絡してきたのだ。






「じっちゃん。ちょっと聞きたいねんけど……」

「……相変わらずフランクじゃの」

「なんかへりくだるって感じせえへんねん」

「まぁ、別にええけどの。ほかならぬクロウ君じゃし。それでどうしたんじゃ?」

「魔法が使えへんねん」

「魔法が? ……そらそうじゃろ」

「え?」


 否定してほしかったのにまさかの肯定である。あきれたように神様は答えてくれた。


「あっちの世界は地球とよく似たところじゃが、物理法則が微妙に違う。あっちの世界でチューニングされた魔法が、地球で使えるわけはないのう」

「えっ? ……じゃあ、この溢れんばかりの魔力は……」

「持ち腐れじゃの」

「うそやーーーーん!!」


「ガッデム!」とよりによって神様の前で叫び、それは見事なブリッジをかますと、頭を抱えプルプルしていた。






 クロウの野望は潰えた。それも帰還後わずか1時間もたたないうちに。


「落ち着いたかの」

「……面目ない」

「別にいいわい。若いときは良くあることじゃ」


「ほっほ」と湯呑の茶をすする神様。妙に所帯じみている上に懐が広い。


「なんてこった……」

「なんじゃい。変なご褒美ねだると思ったら、魔法が使いたかったのかい」

「そやねん。魔法のない世界で魔法が使えたら、たぶん世界は楽しいんちゃうかなって思っててん」

「なるほどのう……」


 特に風の魔法はいいと思っていた。走ってる時に後ろからずっと追い風で煽ったり、近づいてほしくない奴が来たら、相手に向かい風をずっと吹かせてやったりとか、絡まれたら風の球でボディをかましてやったりとか。スケールは小さいが、微妙ないやがらせができるとずっとクロウは思っていた。いじめはクロウの心を今だ蝕んでいるようだ。

 ただ魔力を使って超人的な力を発揮することはできるらしい。オリンピック選手なんか目じゃないほど。やめといたほうがいいとも言われたが。


 ずずっと茶をすする神様。ほぅ、と一息つくと衝撃発言を口からこぼした。


「だったらそっちの魔術使えたらいいんじゃないかの?」


 神様が言うには、地球には『魔術』というものがあるとのこと。お手軽ではないがその溢れる魔力があるなら、たぶん使えるじゃろうと。


「マジか……ホンマにホンマなん?」

「わしゃ神じゃからな。嘘はつかんよ」


 確かに、全部終わったらちゃんと帰してくれたし、復讐系ラノベみたいな展開もなかったし、信用してもいいかもしれないと思ったクロウ。もちろん内心は筒抜けである。人間はそういうものと思っている神様はいちいち口にしないが。


「手っ取り早いのは神と契約することじゃの。別に一から理論を構築しても構わんが、まず生きてる間に成果が出ることはないじゃろ」

「誰かに弟子入りとか……?」

「あてはあるのかの?」


 あるわけなかった。


「そうじゃのう……日本にはいろんな神がおるしの。ほらクロウ君ぐらいの男子じゃったら結構好きじゃろ? 『ソロモン72柱』とか『七つの大罪』とか。やってやれんことはないぞ」

「おぉ……」


 歓喜に震えるクロウの右手がうずく……ような気がしている。


「ただ、コンタクトが取れる場所に制限があるんじゃよ」


 そう言って神様は、やり方を教えてくれた。

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