第2話 あいさつ――土属性

「アタシたちには好感度システムの影響が色濃く残ってるんだ。たぶんね」


 ゲームで土属性のヒロインとして存在していたソリッドは目の前に現れてから開口一番にそう言った。


「……え、っと、その、ゲームと現実の区別はきれいについてる感じなんですね」

「おっと、敬語かい? ふむ、まあ当然と言えば当然か。……うん、ちゃんと自分が人間じゃないとか、この世界の基礎的な知識とかは不思議と理解できるよ。そういう風にできている、ということなんだろうね」


 茶髪な彼女に関して最初に思ったのは、背が高いなということだった。というより、てっきりあの説明役のように手のひらサイズかと思っていたのだが、現れたのは通常の人間スケールで、正直驚いている。


「あー、好感度システムが何でしたっけ」

「そうそう、好感度システムだ。あれはまあ、私たちからプレイヤーへの好意を示しているものだろう? ゲームではそれを上げることで物語が進行した。……間違ってないよね?」


 僕は頷く。ソリッドはスマホが並べられている机の向こう側に座り、かけていたメガネを胸ポケットに引っ掛けた。


「アタシたちはゲームの情報を引き継いでる。それは蓄積した好感度も例外じゃない。つまり、ゲームで言うプレイヤーにアタシたちはある程度、それこそ少し過剰なくらいの好意を抱いた状態でこの現実に現れるわけだよ。そしてプレイヤーとは何を隠そう君だ。……どうかな、理解できたかい。事の重大性が」

「……それは、どういう?」

「わからないならよく考えてみること。他人に言われるより、きっと自分で理解したほうがいいからね。……とりあえず、アタシたちは期待しているということだけ言っておこうかな」


 机の上に肘をのせ、その手の甲で自らの顔を支えながらソリッドは薄く笑う。


「今回の本来の目的はあいさつだったね。知ってると思うけどアタシはソリッド。ゲームでは土属性をつかさどるヒロインだった。結末がどうなるかわからないけど、よろしくね、主人公クン」


 その言葉を最後にソリッドの姿は掻き消える。四角いブロックのようなものが泡のようにはじけ、数舜後にはソリッドがいた痕跡は跡形もなく消えていた。


「どうだった? もう少し長くてもよかったと思うけど、ソリッドは怖がりみたい」


 後ろから声がして慌てて振り返る。そこには先ほどの説明役がいた。


「……なんで、大きくなってるんですかね」

 

 人間スケールの説明役を見上げ、僕はそう問いかける。


「トラブルが起きた。具体的に言うならエネルギー供給元がなくなった。会社がつぶれたのは知っていたけれど、アフターケアまで放棄するとは思わなかった。私の仕事は終わってないから、緊急措置としてあなたと接続させてもらった」


 そこで理解できたでしょう? とでもいいたそうな顔をするので、僕は少し頭を巡らせてから、再度口を開いた。


「もう少し説明が欲しい」

「……私は実のところフェイクドールとは少し違うシステムで動いていたのだけど、それだと仕事が終わる前に消えてしまいそうだったから便宜上あなたのフェイクドールになったということ」

「それ、僕の寿命は?」

「問題ない。だいたい半分からだいたいが消えたぐらいだから」

「いや、問題だと思うんですけど」

「うるさい。仕事が終われば私は消える。そうすれば寿命は元に戻る。ほら、問題ないでしょう」

「あ、はい」


 有無を言わせぬ迫力に思わず頷き、それを確認した説明役は何事もなかったかのように僕の横を歩いていく。


 そして机の向こう側に回り、僕を見下ろしたまま告げる。


「次は火属性のエール。もう一度言っておくけど最終的にあなたは一人を選ばなければいけない。そのことをちゃんと心に留めておくこと」

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