属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?
因幡寧
第1話 プロローグ
――世界は唐突に発展した。
きっと現状を端的に表現するとそういうことになるのだと思う。
こういう言い方なら、『ある日宇宙人がたくさんの技術を持ってきた』なんて突飛な真実を羅列するよりかは、いくらか受け入れやすくなるだろう。
「……で、これがあなたの不埒な行動の結果なわけだけど」
目の前で手のひらサイズの少女がスマホの上に立って、正座する僕を見上げていた。不機嫌そうな目が金色の髪の間から覗く。微発光しているようにも見えるその髪が彼女を現実という場所から遠ざけている。
その前にはスマホが二つ並べられており、その片方にはグラフが映し出されていた。
「……感想は?」
「これっぽっちも現実味がないです」
「まあそうだと思う。寿命がおおよそ半分になるといってもスパンとしては長いし。――でもこれは事実としてあなたの前に横たわっていること。そして、こんなことは私の側も許容できないからこうして処理のために私が生み出されたわけ」
はじめ、彼女は自身のことを使い捨てのプログラムだと称した。そしてすべてはお前のせいだと。お前が三つの端末でこのゲームを遊んでいたせいだと突きつけてきた。
彼女の言う『このゲーム』は、とあるソーシャルゲームを指し示している。
世界が唐突な発展を迎える少し前のこと。僕という人間はネットサーフィンの末に見かけたあるゲームのベータテストに応募した。それはソシャゲのくせに恋愛を主軸に置いたもので、選択できるヒロインは一人だけ。一度選択すればヒロインの変更はできず、そのヒロインと(少なくともそのゲームの中で)生涯を共にすることになるというものだ。
その珍しいゲーム性。単純に恋愛というものになんとなく飢えていた現状。制作会社が聞いたこともないような会社であることに完成度に関する不安はあれど、結局のところ基本無料のソシャゲであり、そんなことはあまり問題にはならなかった。
そんなこんなで僕はそのベータテストに応募した。……三通りの方法で。
そして、見事当選したのだ。……三通りそのすべてで。
そうして僕はベータテストに参加したわけだが、ここでもったいないという感情が首をもたげてくる。
せっかくベータテストへの参加権が三つあるのだ。ならば、使わなければ損だろう。という僕としては至極当然な、彼女曰く不埒な行動の始まりである。
それで僕は契約を終えた昔の端末などを引っ張り出し、それぞれ違うヒロインを選んで合計三つの端末でゲームを開始する。
過去から現在に至る明確な事実として、僕は割とそのゲームが気に入り、ベータだというのにやりこんだ。世界の唐突な発展は、その間の出来事だ。
「私が生まれたのはつい最近のことだから、どういう判断があってこういう機能を入れたのかはわからない。でも正直私はバカだと思う。最先端の技術を取り入れるだけ取り入れて、会社をつぶしてしまうだなんて」
金色の髪の少女がそう毒づくのを、僕は黙って眺めていた。少し触れたくなる衝動が襲いはするものの、なんとなくそれはいけない気がする。
彼女の言う最先端の技術。それが宇宙人からもたらされた技術のうちの一つであり、今目の前に彼女がいる理由だ。
それは『フェイクドール』という技術らしい。
人間の生命力とかいう不定形なものを燃料に、共通認識やら相互作用を利用したなんたらかんたら。まあつまり、金色の髪の彼女から詳細な説明は受けたものの、自分の理解が及ぶ範囲ではなかった。そのことは彼女もわかっていたのか、最後にこう要約した。「これは空想を現実にする技術」と。
「あなたは運がいいのか悪いのか三人のフェイクドールと接続状態にある。この三人はあなたがゲームで選んだ三人のヒロイン。ゲーム内の情報は継承されているから、ゲームの中から彼女たちが飛び出してきたみたいな認識でだいたいは間違ってない。問題はフェイクドールの技術が生命力を燃料にしている以上、あまりに多くの接続は命に関わる。だから表に出れるのは一人だけ。他の二人は省エネ状態で稼働することになる。それでも――」
「寿命はだいたい半分になる、と」
「そう。だからあなたには選択してもらわなければいけない。三人のうち一人、誰をあなたのフェイクドールとするのか。……もちろん、そもそもとしてフェイクドールを持たないという選択肢も存在するということは伝えておく」
――世界は唐突に発展した。ただ、その代償として技術は氾濫し、ある一つの小さな会社が規制される前にある技術を使用した。
世界はかろうじて平和を保っていたが、その一部では突飛な出来事が起こりえた。これは、そんな一部の出来事だ。
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