2日目の2 塩分は目から出る


 富山ブラックをご存じだろうか。

 その名の通り富山県富山市を発祥地とするラーメンであり、濃い醤油によって黒色に寄ったスープが特徴である。

 詳しい説明は割愛するがこのラーメン、基本的に濃い。塩辛いのが苦手な人には正直おすすめできないが、そうでなければ一食の価値ありだ。


 こんな特徴的なラーメンを日常的にいただけるのだから、ご当地の人は恵まれている。

 そんなことを思いながらカウンター席でメニューを眺めていると、隣にイタリア人とおぼしき男性二人組が座ってきた。海外からもお客が来るんだな、とこの店の人気具合が窺える。


 店名を出すのは控えるが、どうやらここは富山で煮卵入りラーメンを初めて出した店らしい。

 それを言い出したら何でもありな気がするが。

 元祖とか本家とか、何を以て判断するのか問題と似ている気がする。


 煮卵入りの富山ラーメンを汁まで完食して店をあとにする。

 外はすっかり暗く、雨まで降り始めていた。荷物を軽量化するために傘など持っていなかった筆者としては向かい風だ。ここからは北上するので、雨雲よりも電車が速く走ることを期待するしかない。


 さて、一日目の最後に気づいた問題には二つ目があったのを覚えておられるだろうか。

 一つ目の日数制限は既に解決の見通しが立っている。二つ目は、そもそも青春十八きっぷでは乗車不可の区間が存在している、という問題である。

 富山から新潟方面へと向かうには、あいの風とやま鉄道と、日本海ひすいラインという二つの鉄道を乗り継ぐ必要があった。これらは地方鉄道に属しておりJRの路線のみ乗り放題である青春十八きっぷでは乗車できない。

 厳密に言うと例外の区間もあるが――残念ながらそれは富山以西へ向かう際、特例中の特例として認められるものであり、今回の旅程では活用することができない。

(実はその特例を四年前の忘年取材旅行で意図せず満たしているのだが、それはまた別のお話)

 中部地方の北側を青春十八きっぷで旅行するつもりのある方はこの話を頭の片隅にでも置いておくといいかもしれない。

 ちなみにこのルールを無視して青春十八きっぷで他の鉄道に乗ろうとすると改札を抜けるときの駅員さんの確認で詰む。本当によくできた仕組みである。


 ここで電車に興味のない読者のために要点を述べると、レギュレーションに多少反してでも別途切符を購入してJR以外の鉄道に乗るか、あくまでJRにこだわって岐阜まで引き返して帰路に就くか、という二択を迫られていた。

 とはいえ後者の択はあり得ない。既に四時間かけて富山まで来ているのだ、ここから引き返してはただ富山にラーメンを食べに来ただけになってしまう。

 なおこの時点ではまだ宿泊地を決めていない。それも大概無計画な話だが。


 結論、筆者は東へ向かう切符を購入した。

 しめて二四四〇円。無職にはつらい出費である。


 日中であれば日本海が見えたであろう路線を夜間に通り抜けるのはいささかもったいないような気もしたが、今日はあまり進めていないこともあって贅沢は言えない。たとえ日中に通過したとしてもこの悪天候では佳景も望めまい。

 そう思いながら停車駅のホームにある広告を車内から眺めていた――そのときである。

 僕は発見する。あいの風とやま鉄道を一日乗り放題にできるお得な切符が存在していることを。

 価格を見ると、大人ひとり一五〇〇円。


 少し泣いた。





※追記:帰宅後あらためて確認してみたところ、別路線を跨ぐ関係上お得な切符でも乗車できない区間があり、再計算すると普通に切符を買ったほうが安いことが判明した。あの涙はなんだったんだ。

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