1日目 危機感は安全圏から生まれる


 仕事を辞めた。


 それが自宅に帰らなくていい理由になると気づき、慌てて予防接種の予定を入れ、名作と謳われる恋愛アドベンチャーゲームを購入した。

 二〇二二年、歳末の出来事である。




 まずは今回の旅のレギュレーションの話をしたい。

 旅の終わりを定めるリミットは二段階あった。


 一つ目は青春十八きっぷの使用回数。一回は関東から近畿への往路に使ったので、残りは四回だ。

なお、往路をきっぷ一回分で行こうとするのはそれなりに無茶な行程になる。

 よって多少の旅情を得たいと思うのなら最低でも二日は復路に費やしたい。加えて二日が寄り道の許容範囲となる。


 二つ目は前述の予定を入れた日。

 予防接種は一月十二日の午後に予約しており、それまでに自宅に帰っておかなければ間に合わない。

副反応が出ることが予想されるのでその前に調達しなければならないものもあった。

 となると現実的に、十一日の夜が最終的なリミットとみていいだろう。

 ちなみに筆者は桃の缶詰とか買っときたい派である。

 あとこういう小ボケをちょくちょく入れておかないと両の眉毛が痒くなる派である。


 と。

 ひとまず条件らしきものを二つ並べてみたのは、ある程度の指針を立てなければ後で取り返しのつかないことになりそうだと旅行一日目の現在になって気がついたからだ。

 あとあらかじめそれっぽいことを書いておけば後々伏線になるだろうという下心からだ。

 僕は本当に何も考えていないのである。

 なんなら推敲もしたくないくらいである。


 そろそろ今日の旅程を振り返っていこう。

 帰省先の最寄り駅を起点として、JRの路線のみを乗り継ぐ。そうして辿り着いたのは岐阜県の山中。地名を下呂というらしい。

 ちなみに筆者は初めて知ったのだが、下呂の近くには中呂や上呂といった地名もあるようだ。こういう発見をするのも旅の醍醐味だ――行かなくてもそのくらいわかる? はぁ、そうですか。


 青春十八きっぷでの旅を経験したことのある人ならわかるかもしれないが、このきっぷをわざわざ買ってまで旅行しようと思う人はなるべくコスパのいい旅を実現しようとするものである。


 効率考えたら途中下車なんてできねぇよなぁ!? という旨の話は四年前(四年前!?)に書いた前章、忘年取材旅行編でも触れているので割愛する。

 もう長い間放置していたので読み返すのが筆者自身怖いくらいであるが、相変わらず薬にも毒にもならないのでお時間のある人はどうぞ。


 話を戻して、コスパの良い旅路を実現するにはなるべく長く電車に乗っている必要がある。

 僕の場合は乗車中に運良く座れたときに翌日の乗り継ぎルートを計画することにしている。宿泊地から宿泊地までの所要時間をカウントし、何時までなら現地を観光できるか、逃してはいけない電車は何時発か、と逆算していくのだ。


 そうして大変なことに気がついた。


 これ、4日分の切符じゃ関東に帰れなくね?

 いや、そもそもこの先JRの路線、繋がってなくね――?


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