想像力の限界にぶつかる話
今更だが、一人旅である。
本編で先に触れた通り、筆者は計画性というものが皆無だ。そんな旅に他人を巻き込むわけにはいかないのと、ぶっちゃけ他人と予定を合わせるのが嫌(こっちが主)なのとで気楽さを求めて一人旅になるのである。
誰も知り合いの居ない土地で独りぼっち、というのは普段のしがらみから解放されたような心地で癖になる。もちろん一人であることによって相応の危険も生じるけれど、細心の注意を払っておけば大半の難は未然に回避できる。自ずからスリルを求めたりしなければ、の話だが。
さて本題。
旅館での夕食はバイキングだった。一人での外食は慣れたものだが、この方式だとひとつ問題が起こる。周囲をどうしても意識してしまう、ということだ。
バイキング形式の食事は、食べたいものを立ち歩いて皿に盛りつけていくのが基本だ。なので普通の着席しっぱなしの食事よりも他者と接触しやすい。同じ料理を取ろうとしたときに譲り合ったり、往来中にぶつかりそうになったりする。半分ホテルの立食パーティー状態で、落ち着いて料理を選ぶこともできない。
僕が小心者すぎるのだろうか。尋ねる相手も、ここにはいない。
こうなると相対的に寂しさが増してくるのが悲しき性。ミニコンロで鍋を温めている間に僕は、目の前の空席に旅の同行者を思い描く、という行為に手を染め始めた。ディティールについてはあまり深く描写したくはないので割愛するが、色々と限界だったということだけは自供しておこうと思う。
あり得ない存在は幻覚を見ることすら叶わない。僕は自分の理想さえ、絶対に手に入らないと諦めているのかもしれない。
まあ偽物の世界に逃げ込んでもしょうがないので前向きに気を保つことにした。何か面白い出会いはないかなあと常に気を巡らせておけば、他人だらけの空間でも案外疎外感を覚えたりはしないものだ。これはこれで疲れるけれども。
だいたいそんな感じで夕食を終え、部屋に戻り、旅の一日目は終わった。
ところで、同行者の幻覚はコーヒーを飲んだ直後であればある程度は姿を描けるようになってきた。今も窓辺の席の真向かいに、その人が行儀良く座っているのが見えていたりする。
色々と、限界のようだ。
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