2日目の4


 最寄駅からワンマン電車に乗って一駅。今宵の宿は海辺の高台から太平洋を見渡すリゾートホテルである。普段の旅で利用するのは専らビジネスホテルなのだが、執筆環境を高めたいがためにより設備の整った場所を選んだ。


 本紀文の初めにも述べた通り、筆者は旅先に何のこだわりも持たない人間である。この宿に予約を入れたのは一日目の日付が変わる直前、つまりは前日のことであり、特にこの宿でなければいけないという理由もなかった。


 宿を探していたら偶然条件の良いリゾートホテルがヒットして、しかも朝食付きプランの空きがあったから予約をした。船旅のおかげで予算には余裕があったので、少々割高でもそれほど苦しくはない。


 ちなみに乗った電車は二時間に一度発車する当駅始発である。出発の数十分前に乗車し、移動時間は僅か七分。旅情としては悪くないが、こういうときに車を運転できないのは不便に感じてしまう。しかしその不便さを楽しめてこそ、ろくでなし人間への門戸は開かれるというものだ……ものなのか?


 とにかく、山林の中を窓に枝や葉をバンバン当てながら走るローカル線に乗ってホテル最寄りの駅へ。送迎バスは呼ばず(電話が苦手なので問い合わせができない)に徒歩での移動。またか、と言われそうだが本人は楽しいので問題はない。


 しかしこの徒歩がそこそこの難関だった。道筋自体はよくある湾岸道路で、なんと歩道もきちんと整備されていた(※8)のだが、思いのほか道程が長い。ホテルが目視できるぶんなおさら遠く感じる。二、三十分ほど歩いて、道中の錆び果てた廃屋や俳人の句碑を写真に収めつつホテルに向かう。


 昼間は夏の名残を感じさせる白雲と青空であった天上も、秋雨前線の影響によって薄黒い雲が占拠を始めている。海よりの風も心なしか冷たく感じた。南から風が吹く季節ももうじき終わるのだと思うと、滞積していた帰巣本能が目覚め――はしないけれど。


 実際はだらだらとかいた汗が冷えてめっちゃキモいなと思っていた。


 ちょっとはそれらしい場景描写もしておかないと、というただの気まぐれである。






※8 筆者は輪行による湾岸ツーリングもする。前回の旅では車がガンガン通行する道路の狭すぎる路側帯を絶叫しながら走っていた。その経験ゆえに、整備された道路には行政への感謝を捧げることにしている。

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