第60話 答え
目を見開く表情は、遠くから見た者がいたとしても驚いていると解る。
「これは!」
同じ反応。
だが、それがいつもの白頭巾の顔に戻す。
素焼き板を机の上に置くと、ナイフを取り出した。
「まさかね。こんな単純だとはね。」
口元が緩んだのは、気付かなかった自分を笑ったのか?
床に落ちた衝撃で、表面に走ったビビ。それを広げるようにナイフの先端で慎重に小さく突く。
『コンコン』
小さいが室内に響く音。
ビビが繋がり割れた。
その状態を例えるなら[卵]。割ったのは殻の部分。
「よし。」
欠片を払うように待ち上げる中身は、また素焼きの板。
しかし、この板には表面に片寄った十文字の溝とそれ以外の部分に刻まれたモノがある。
「何でしょうか、これは?」
好奇心に引っ張られ覗き込み、無意識に質問した神父。
「表面に刻まれているのは文字…。」
考え込み、記憶の検索に入る白頭巾。
思い当たるのは、
「符丁ね。」
「符丁って、白頭巾さん達が使っているアレですか?」
「そうなんだけど、この十文字の溝で読めないのよ。」
改めて、板を見ると刻まれた符丁が溝で分断され欠けていた。
板の表面を分ける片寄った十文字。
(何処かで?)
神父の記憶検索が始まる。
見開いた目に浮かぶ表情。思い当たったようだ。
「こ、こ、これ。」
慌て、慌て、慌て首元に手をやる。
取り出したのは、古くからこの街の教会に使わるあの十字架。
「それだ!」
白頭巾も朧気な記憶を探っていたようだ。
受け取り、両面を眺める。
「こっちの向きだね。」
十文字の溝へと嵌め込んだ。
「読める!」
報告した時には、もう読み始めていた。
早る気持ちを抑えながら、白頭巾の報告を待つ神父。
(時間とは、こんなにも永いものなのか。)
神父が、読み終えたと解ったのは白頭巾の口元に浮かんだいつもの笑み。
「そんな所にね。」
「手がかりですか?」
堪えられなくなった。
「ええ、多分『銀の牙』の隠れ家。」
「何処ですか!」
自然と大声になっていた…。
「それは…。」
次の言葉が発せられるまでの永い永いを神父は耐える。
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