第49話 本気
ペーターを中心に左右へと別れた二人。
「あら、やるじゃない。」
その言葉は、着地した先で聞いた。
「騙したな! 卑怯者!」
女性が叫び。
二人が白頭巾に向き直る。
立ち止まっていた白頭巾は俯き加減。
ゆっくり顔を上げながら、
「人質取る奴が、卑怯者だなてどの口が言うのかしらね。」
笑顔。そして、その上に張り付いた怒り。
他に見ているものがいれば、夢々うなされる恐怖…。いや、狂気に満ちた満面の笑顔。
実際に、見た人ならざる二人は無意識に後に一歩下がっていた。
白頭巾の口角が上がり、笑顔と共に狂気が増す。
「安心して、今日は捕まえるなんて事は考えてないから。」
人ならざる二人は知った。人質が無駄だと。それどころか、むしろ怒らせただけなのではと、自らの行いを後悔した。
人間なら戦意喪失なのだろうが、そこは流石人狼。
「人間風情が、人狼を舐めるな!」
叫ぶ女性の服が内側から盛り上がった毛皮に覆われた筋肉に耐えきれなくなり裂けた。
同じく子供の方も、毛皮に覆われた筋肉が服を裂く。
人狼は、元になった人間が基本となるのか女性は女性らしい体型の人狼に、子供は子供らしく少し小さな人狼となった。
とは言えどちらの人狼も白頭巾よりは大きい。
身が変わる隙きを見逃すはずもない白頭巾は、両手を後に回し腰の棒手裏剣を指に挟む。
それを睨みで、
(隙きは無いぞ。それを投げたら貴様を斬り裂いてやる。)
と、制する人狼達。
返す白頭巾は、
(少しは楽しめそうね。)
そう睨み返し、挟んだ棒手裏剣から両の指を離し、右手はアノ短剣の柄を握る。
残る左手は何かを操作した。
両者の間で見えない火花が花火になる。
「ワオーーーン!」
それが、真の戦いの合図。
短剣を引き抜きながら、小さい方の一匹へ…、子人狼へ駆け出す白頭巾。
迎える子供人狼も同じく駆け出す。ただし、四つん這い。
同じく四つん這いで、駆け出す女人狼へ、翻(ひるがえ)る白頭巾の裾から放たれる銀の光。
完全に出鼻(でばな)を挫(くじ)かれた女人狼は、回避のための時間を数瞬、たっぷりと取らされた。
子人狼は駆ける勢いで、後ろ脚に体重の乗せ立ち上がり、二本脚へ。
そして、一人と一匹の間合い。
数瞬の間の攻防。
子人狼へ、短剣で斬り付ける白頭巾。
かわす子人狼。返す刀で爪で斬り付ける。
かわす白頭巾は、そのままの間合いで人狼の左手側へと回り込む。
その攻防の様子を見ていた神父が、気が付く、
(白頭巾さんの腰の辺りが時々光るのは何だろう?)
その光は、細く小さい月の輝き。
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