第50話 肉薄


 数瞬遅れで、戦いの場へたどり着いた女人狼。

 狙うは四足の踏み切りからの一撃。


 見えた白頭巾の隙き。


 膝と肘を曲げ溜める。


 大地を蹴れと脳からの指令が出る。


 それを止めるのも、脳からの指令。


 白頭巾が、子人狼の陰に隠れた。


 踏み止まり、左に回り込む女人狼。


 そして、気が付く…。

(こいつは、必ず仲間を私との間に挟んで戦っている!)

と。



 子人狼と戦う白頭巾は肉迫の距離。


 白頭巾の短剣の一振りが、子人狼の毛を数本宙に舞わせる。


 子人狼の爪の一振りが、白頭巾の胸元をかすめる。

「あーっ! この服、お気に入りなんだから、傷つけないでよね!」

 また、本気なのか? 冗談なのか? 解らないが、笑い顔に張り付いた怒りは消えていない。



 子人狼を盾に戦う白頭巾を狙う女人狼は右へ、左へと回り込みながら隙きを伺う。


 しかし、白頭巾は常に子人狼の陰に居る。

 何度か繰り返すうちに、何かに気付き、心の中でほくそ笑む女人狼。


 左に回り込む女人狼。

(私が、左に回れば…。)

 白頭巾は、子人狼の陰に入る。

(そうそう、必ず仲間の陰に隠れる。)

 口元が釣り上がる狼の笑い顔。


(所詮、人間。我々を舐め過ぎたな。)

 ためも無く、音も無く、女人狼は宙に舞い、白頭巾の頭上にいた。


 見た。


 白頭巾の左手に握られている、鈍く光る筒が自分に向けらしているのを。


 嫌な予感。


 危険。


 恐怖。


 表す言葉は色々とあるがそれを感じとり、咄嗟に顔を両手で防御したのは野生の勘。


『パン!』


『パン!』


 乾いた音が二回。



 白頭巾は見もしないで引き金を引いていた。そこに的があるのが解っていたかのように。



 音と共に銃口から噴き出す火に驚き、後に飛び退く子人狼。


 白頭巾も後に跳び退く。


 直後。


 白頭巾が明け渡した地面に、

『ドサッ』

 女人狼が墜ちた。

 右腕と左肩の銃創から煙を上げながら。


「あんた達が死んでる間に、こんなのが発明されたのよ。」

 そう言うと左斜に構え、左手の回転弾倉式拳銃を顔の高さに上げ見せ付けた。


「グルルル…。」

 痛みに耐えながら、顔を上げ睨む女人狼。

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