第48話 かます


 放心。


 呆れ。


 驚き…。


 思い付く限り現在の状況を解説する言葉を探しても、起きている状況には遠く及ばない。



 三人は、只だた立ち尽くしている。

 今起きている事が全く理解できない…。と言うよりは、理解を脳が拒んでいた。



「お…。」

 何とか、声を絞り出す相手方の女性。

「お前、この状況が分かっているのか!?」


「そんなに、喚(わめ)かなくても聞こえるわよ。」

 わざとらしく、両手で耳を塞ぐ白頭巾。


 女の、

「こいつめ!」

 怒りに燃える赤い目が白頭巾を刺す。


 気にした風もなく、塞いでいた手を離し、

「どうするのよ? 二人がかりで来るの?」

 相手に向かって歩き出す白頭巾。

「それとも、ペーター…。人質を盾にして、私に殺されろって言う?」



 はたと気付く、ぼーっと立ち尽くしている自分に。

 慌て、近くの木の陰に隠れた神父。

 思い出しながら、荷物の中の物を用意し始め、

「これと…。これ。」

 確かめているのはものか? 自分自身の心か?



「止まれ!」

 子供の声。

「こいつが、どうなってもいいのか!」


 歩みを止めず、

「昔も今も、言う台詞は変わらないのね。」

 ため息。


 そして、

「ねえ。さっきの会話(はなし)なんだけどね。」

 更に前に進み。

「あんた達が気を取られている、隙きに私の仲間が人質を助けたって思わない?」


 同時に見た。縛り座らせておいたペーターを。


 そこには、縛られ身動きが取れないままの状態のペーターが転がっていた。

「ニッ。」

 効果音が聞こえる程の作り笑い。


 それは、瞬刻(しゅんこく)の隙き!

 だが、白頭巾には十分過ぎる程の時間。


 両の裾が翻り放たれたのは、今宵の月夜に映える銀の棒手裏剣と殺意。

 それは、棒手裏剣という武器が殺すのか、殺意という狂気が殺すのか? 


 放たれた殺意に反応し、身を捻り飛び退いたのは人ならざるものの本能。

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