第29話 来客


 深夜。



 左の小指が引っ張られる感覚で、『パチリ』と、目を開く白頭巾。眠っていたのではなく、ただ目を閉じていた様に見えた。

「お客さんか…。」


 小指を引っ張っていたものの正体は、光に透かせばようやく見える程の細い糸。それが左小指の指輪に何本も結ばれていた。

 指輪から糸を手繰れば、窓の隙間から外へと伸び、家の周りに張り巡らされている。


 その内の一本が引っ張る原因。つまり、外の糸に掛かったモノがいる。


 寝床から音も抜け出し、身を屈めたままペーターの所へ。


「起きて、ペーター。」

 揺さぶられ、意識が夢の世界から現実に引き戻されながら、

「もう、朝…。」

「しーっ。」

 口を押さえられる。


「お客さんよ。」

 その一言で眠気が飛ぶ。

「来ましたか…。」

 小声で確認した。

「ええ。ようやく…。街で目立ったかいがあったわ。」

 笑顔では無く、不敵な笑い。


「いつも通りに隠れてますから。」

「よろしくね。」

 ペーターは枕の下に隠していたナイフを手にすると、鞘から抜き刃を確認した。

「じゃっ。」

 ナイフを懐にしまうと、ベッドの下に潜り込んた。


 白頭巾はバスケットを開き、中の物を一つずつ確認しながら身に着ける。

「あっ。そうそう、新型持って来てたはず。」

「僕の荷物の中にありますよ。」

 ペーターがベッドの下から答えた。


 荷物を開き目的のモノを取り出す。

「これか…。」

 構え、何かを確かめた。

「連射式銃って言ってたからもう少し重いかと思ったけど。」

 それを肩から下げ、予備弾倉をポケットに押し込んだ。


「後、これよろしく。」

 荷物の中から取り出した木箱をベッドの下に滑らせた。

「解りました。」


 そして、アノ筒型の武器を取り出し、

「出来れば、捕まえたいなぁ…。」

 机の上に置く。




『みしっ』

 小さく屋根が鳴いた。


「先手必勝。」

 言うが早いか肩に掛けていた連射式銃を構え、引き金を引く。


『ダダダダッ!』

 それは闘いの火蓋が切って落とされる音。


 天井に空いた無数の穴から月の光が差し込む様子は指図め満天の星空。

「武器としては、良いんだけど…。」

 満足しているようだが、

「幾らかかるのやら…。」

 撃ち出している銀製の弾丸の事を言っているらしい。


「こんなの使ったら、ペーターのお小遣いは無しね。」

「ご主人様、直に使うのは止めて下さい。」

 抗議が来た。

「考えとくわ。」

 冗談を言いながらも、五感は外の気配を探る。


 気が気ではないペーターは、

「ご主人様は、本気の時があるから。僕のお小遣いが危ないかも。」

 怯えていた。


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