第28話 狩人
教えられた道を進むと見えてくる一軒家。
そこは街の雑踏から少し離れた場所。
「よかったー。居るみたいね。」
家に灯る明かりが見えたのは、辺りに夜の帳が下り始めていたから。
近付き確信できた。その家は狩人の住まいを醸(かも)し出していた。
干され毛皮。飾られた動物の骨。それは、狩人のトロフィー。
「神父さん。よろしくね。」
突然の指名に戸惑う。
「こんな時間に見ず知らずの[可愛い]女の子が訪ねたら警戒するでしょ。」
[可愛い]が強調されていた。が、その言葉は納得のいくものだった。
「解りました。」
一瞬、笑った表情を浮かべたペーターは身の危険を感じニ歩下がる。
扉を叩くと直に反応が返ってくる。
「誰だ?」
「神父のレイモンドと言います。こんな時間にすみません。」
中から出てきたのは三十代半ばだろうか。特有の鋭さを持った目をしている男。いや、狩人。
その狩人が驚いたのは神父ではなく、その後ろの二人組だった。
「とりあえず、中へ。」
招き入れた。
テーブルに付くと、
「何の用だ?」
狩人が、単刀直入に聞いた。
「用があるのは私ではなく、こちらの白頭巾さんです。」
狩人は、改めて白い頭巾の少女を見る。
「木こりさん達が、カートさんに聞くと良いとのことだったので。」
どう見ても普通の少女にしか見えないが、あの木こりが自分を紹介したと言うなら只者では無いのは確かだろう。
ちらりと神父に目をやり、確か三ヶ月程前だったか街に来たはずだ。何度か見かけたと思い出す。
神父が連れて来たのなら、嘘は付いていないだろうと考えが巡る。
目線が白い頭巾の少女に戻すと、
「私の値踏みは終わりましたか?」
笑顔が迎える。
完全に見透かされていた。
「あっ、ああ。」
「慣れてますから。」
「すまない。」
「良いですよ。お話さえ聞ければ。」
「で、何が聞きたい?」
「森の事を聞きたいの。」
「森か。確かに、森の事は他の人よりは知っているが。」
白頭巾は、やはりアノ本とペンを取り出した。
「森に近付くなとか、行くなって言われたりしている場所はありませんか?」
森でのイロハを教えて貰った先輩達から聞いた話を記憶の底に潜りながら探す。
「そう言えば、森の北東側は行くなと。何でも、ガス溜まりがあるとかで危険だと言ってたな。」
続け、
「まあ、そっちは獲物も殆ど居ないんで行かないがな。」
メモを取り終えると、
「そこへ案内してください。」
驚き、
「危ないぞ。」
まさか、案内しろと言われるとは思わなかったようだ。
「解っています。でも、行かないと…。」
声は普通のトーンで言っていたが、目は止めても無駄と言っていた。
「解った。片道が半日程かかるぞ。」
「なら、日のある内に帰れそうですね。」
狩人は何故かその言葉に引っ掛かりを覚えた。
「明後日なら行けますか?」
白頭巾の提案に、少し考え、
「その日なら。」
「よろしくね。」
「用意しとく。」
「あっ。報酬は如何程ですか?」
「そうだな。帰ってからの飲み代でどうだ?」
「交渉成立って事で。」
笑顔で握手。
自分は、こんなにも好奇心旺盛なのだと知った。
今までの話の流れで、森の奥にあるものの見当が付いていた。それが、かえって興味と言う部分をくすぐった。
「あの…。」
狩人の家を出て直に耐えられなくなった。
「何?」
「森の奥に何が…。」
なるべく平穏を装って言った。
「神父さんの想像の通りのものよ。」
見透かされていた。
「やはり…。」
「でも…。」
「でも?」
神父は思わず繰り返す。
「大人しく死んでてくれると良いんだけどね。」
その言葉に自分の想像の限界を知り、
「大人しくですか…。」
乾いた笑いが出た。
二人と別れた教会への帰り道。
自分は伝説や伽話に出てくる存在…、あの白頭巾に会い、傍観者では無く当事者としてこの事件と接している事に舞い上がっているだけなのではないか?
自問自答するが、答えてくれる者はいない。
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