第27話 話す

 一頻り笑うと、

「オヤジ。酒だ!」

 大男が注文する。


 出された酒を、グイッと一口煽(あお)り、

「お嬢さん。ここに何しに来た?」

「お話が聞きたくて。」

「それなら、何でそう言わねぇ?」

 少し呆れ顔になり、

「だって、言う前に仕掛けてきたじゃない。」


 また、一口。

「違いねぇ。」

 大笑いした。


 一気に酒を飲み干し、

「何が聞きたい?」

「ちょっと、待ってね。」


 そのまま扉へ行き開き、

「入って良いわよ。」

 外から呼び入れる。


 その間に大男は、また酒を注文した。



 入ってくるなり、

「やっぱり。大きな音が聞こえたから、もしやと思ったけど…。」

 店に起きた惨状を確認したようだ。

「私じゃないわよ。ペーター。」

「原因はご主人様でしょ。」

「その辺りはノーコメントで。」

 笑う。


 続き入って来て、

「いったい何が…。」

 神父には酒場の荒事は理解できないようだ。


 そんな神父に、

「酒場のレクリエーションさ。神父さん。」

 大男が笑い、他の男達も続いた。


 笑いが収まると、

「どんな、話が聞きたい?」


 ペーターが持っていたバスケットからアノ本とペンを取り出し、

「私が聞きたいのは、森の事。」

「森って俺達が木を伐ってる森か?」

「そう。その森。」

 意外だったのか男達は顔を見合わせる。

「森か…。で、何が聞きたいんだ?」

「森に禁断…。」

 言いかけ、少し考え、

「入るなって言われたとか、近付くなって言われてるとかの場所は無い?」


 大男を始めとする木こり達全員が考え、

「あったか?」

「あるか?」

 互いに聞く。


 大男が、

「お嬢さん。見ての通りだ。」

 誰も思い当たる表情ではなかった。

「俺達は森で木を伐る…。」

 ひと呼吸。

「でだ、伐った木を街へ運ぶ。」

 今度は一口煽り。

「つまりだ。木を街へ運べねえ場所には行かないって事だ。」

 周りの男達も、うんうんと頷く。

「そっか…。言われれば確かにそうね。」

 少し考え、

「森に纏わる昔話とかは無い?」


 また、考える男達。


「そう言やぁ…。」

 一人が口を開く、

「爺さんが、満月の夜は森の奥から怪物が来るから近付くなって言ってたな。」

 男達は、その事に思い当たったようで、

「そんな事、言ってたな。」

「言ってた。」


「でも、まあ。あれだ。夜は仕事しねえから、そんな事忘れてちまってたな。」

「違いねえ。」

 笑う男達。


「森の奥か…。」

 白頭巾の呟きが聞えたように、

「森の奥なら、ほら…。なんて言ったっけか…。狩人がいたろう。」

 一人の男の問いかけに、皆がまた思い出す努力を始めた。


「思い出した!」

 声を上げた男に皆の視線が集まる。

「確か、カートとか言う名前だ。」

 名前に思い当たった男達は、

「そうそう。そんな名前だ。」

 口々にした。


「そいつは…。」

 更に記憶を手繰り、

「北側の街外れ、森に近い場所に家があるはずだ。」



「ありがとう。行ってみるわ。」

 立ち去ろうとする白頭巾に、

「あの…、忘れ物…。」

 先程のナイフが差し出された。

「あら、忘れるところだった。」

 受け取ると懐にしまった。


 その光景に呆れるペーター。


 驚く神父。



 酒場を出掛けに、

「マスター。ごめんなさいね。」

 謝る白頭巾。

「気にするな。いつももの事だ。」

 酔って暴れるのは日常茶飯事らしい。

「修理代は、飲み代に入ってるしな。」

 笑った。


「悪い人ね。」

「あんたもな。やり方が慣れてるぜ。」

「酒場は、何処も同じ。頭にを押さえれば後はどうにでもなるわ。」

「悪い娘だ。」

「お互いに。」

 二人して笑った。

「じゃあね。」

「今度は、飲みに来な。」

「そうね。もう少し大人になったらね。」

「待ってるぜ。」

 扉を潜りながら、後ろに手を振る。

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