第30話 戦い


『みし』

 また、屋根が鳴く。


 反射的に連射式銃を向け引き金を引いていた。

 連続で撃ち出された弾丸は新たな星空を作る。


「あちゃ~、撃っちゃった。」

 構えた連射式銃を肩のベルト事外し、机の上に置いた。

「これ以上使ったら、私のお小遣いも無くなる。」

 ポケットの予備弾倉も同じく机の上に。


「こっちにしよう。」

 懐(ふところ)から回転弾倉の拳銃を取り出した。

「これなら、私のお小遣いは大丈夫なはず。」


 気配を探るお互いの静寂な戦い。


 その均衡を破ったのは

『ズドーン』

という天井を突き抜ける音。


 反射的に拳銃を向け構えさせたのは、狩る者としての性。


 引き金に掛けた指が、直前で思い止まらたのも狩る者の性。


「石か…。」

 自らが空けた大穴が月光を導いて、落ちて来たモノを確認させた。


 直後、背後の窓を破り黒い影が飛び込んで来る!


「やるじゃない。」

 白頭巾は振り向きもせず、左の脇を通した拳銃の引き金を引く。


『パン』


『パン』


 乾いた音が二回。


 弾丸が黒い影への軌道に乗る。

「後ろから来るなんて、お約束過ぎでしょ。」


 命中する直前で身を捻り、弾丸をかわす。

 そのまま黒い影は、床に二本の脚で着地した。

 それは白頭巾の二倍はある大きさ。

「大っきい。」

 正直な感想。


「グルルルル。」

 喉を鳴らし威嚇しながら、ゆっくりと白頭巾から見て右側に移動する。

 天井に空いた穴から差し込む月明かりの下に来た時、黒い影の全身を照らした。


 期待を裏切らないその姿は、狼が人の姿をしていた。

 全身が毛で被われ、前足ではなく五本の指が見て取れる腕。

 頭は獲物を狩る狼。


「あなたは、どちら様かしら?」

 不意に白頭巾が聞いた。


「グルルルル。」

 返事は返される。


「そこまで、人狼化していると声帯は人じゃ無いのか。」

 確かめる様に言い、

「良かったら、捕まってよ。調べたいし。」


「ガウッ!」

 吠えた。

「怒ったの? 感情はあるんだ。流石、元人間。」


「ガウッ!」

 口を付き出す様に吠えた。同時に床を蹴り、横っ飛びした。


「ちぃ。」

 白頭巾は舌打ちと同時に引き金を引く。

 人狼の動きに少し遅れ放たれた弾丸は壁に穴を空けた。


 横っ飛びの人狼は、次に柱を蹴る。

 三角蹴りの要領で向きを変える。



 柱で向きを変え白頭巾の正面から飛び掛かる人狼。

 広げられた両腕の先端には、尖端が輝く爪。


 白頭巾に向けられた殺意の爪が交差の軌跡を描く。

 刹那、後ろに転がりながら空間を空け渡す。

 そこを虚しく斬り裂く爪。


 その人狼の腹を下から右足を蹴り上げる白頭巾の姿は変形の巴投げ。


「グヘッ。」

 肺の空気が押し出され苦悶の声が漏れる。


 体制が崩れ受け身を取れずに飛び掛かった勢いのまま床に転がった人狼。


 仰向けのままで、仰け反り背中を浮かせ、その姿勢で頭を向け視界を確保する白頭巾。

 我々がブリッジと呼ぶ姿勢に近い。


 掲げた両手で拳銃の狙いを付ける。


 引き金を引く。


 転がった勢いを利用し、四本脚で起き上がり素早く飛び退く。


 そこへ着弾。床に穴が空く。



 銃口を追いかけさせ、もう一回引き金を引く。


 次の攻撃が来ると判っていたいた様に、その場から飛び退き物陰へ入る人狼。


 横に転がり腹這いから膝立ち、

「捕まえるのって難しいな…。」

 拳銃を床に置き、勢い良く滑らせた。


 拳銃は『シャー』と音を立て、ベッドの下に滑り込む。

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