第22話 ジャン爺さん


 市長の言った通りにジャン爺さんの事は直に判った。


 西地区にて。


 最初に聞いた三十代男性。

「ジャン爺さんなら…。」

 右手で太陽を遮りながら、天を仰ぎ位置を確認し、

「この時間なら、たぶん…。この先の家の前で日向ぼっこしてるんじゃないかな?」

「そんな事まで…。」

 神父は驚く、自分がこの街に来て三ヶ月、まだまだ知らない事ばかりだと。

「赤い屋根が目印だ。」


 目印の赤い屋根が先に見付けられた。そして、家の前の椅子に座る老人の姿が見えた。


「こんにちは。」

 神父が挨拶すると、

「こんにちは。」

 しっかりした口調で返事を返す。

「ジャンさんですか?」

「おや? 神父様が、このわしに何か用か?」

 後ろの二人に気付き、

「可愛いお嬢さんと坊やまで。」

 変わった組合せを不思議に思った様だ。

「用があるのは、私ではなく…。」


 白頭巾が前に出て、

「お話が聞きたいのです。」

「ほほう、お嬢さんが話を聞きたいとな。丁度、退屈で話相手が欲しいと思っていたところじゃ。」


「では、出来るだけ古いこの街に纏(まつ)わるお話を聞かせてください。」

 考え、

「色々あるが…。」

 こちらも考え、

「そうですね。怪物が出てくる話なんてありますか?」


 更に考え、

「わしが子供の頃に婆さんから聞いた話に、怪物が出てくるものがあるな…。」

「では、それをお願いします。」


 ジャン爺さんは思い出すかの様に、少し間を開けると、ゆっくりと話を始めた。

「わしが子供の頃に婆さんから聞いた話は…。」



 ジャン爺さんのお話。



 寝ない子供にする伽話(とぎばなし)。

 話している婆さんも子供に婆さんからしてもらったという。



 この街が、村だった頃のお話。


 土地がよかったのか、環境が良かったのか。それとも両方か。次第に、他からやって来て住む人が増えた頃。


 ある時、人が殺された。


 犯人は捕まらなかったが、村人は森から来た怪物の仕業だと噂した。


 また、人が殺された。


 そして、三人目が殺された。


 その頃に、ふらりとやって来た旅人が居た。


 そいつは、こともあろうに村人を殺し始めた。女子供も容赦無く殺したそうだ。


 そして、死体を森の奥に埋めた。


 その直後、その旅人は居なくなった。何故か、村人が殺される事も無くなった。


 理由は判らずじまいのまま。


 だから、悪い子は怪物に殺されると言われ、更に旅人がやって来るぞ。

 

 寝ない悪い子には、伽話をされる。



「だいたい、こんなところじゃな。」



 いつの間にかあの革表紙の本にメモを取りっていた白頭巾。

「ありがとう御座います。」

「なんの、なんの。」


「村人を森の何処に埋めたか判りませんか?」

 いきなりの質問に神父が驚き、白頭巾を見た。

「森の事は聞いたことが無いが…。」


 考え、

「森の事は森の民に聞くが良いぞ。」

「森の民ですか?」

「そうじゃ。この街の北側に大きな森がある。そこで働く者達も、当然そこに住む。」

 白頭巾のピンと来た顔を見たジャン爺さんは嬉しいそうに続ける。

「狩人に、木こり。それが森の民じゃな。」

「行ってみます。」


 また考え

「教会について何かお話はありませんか?」

「教会と言うと、この街の教会じゃな…。」

「そうです。」


 ジャン爺さんは目を瞑り記憶の中へ潜る。


 深く深く…。


 やがて、お目当ての層にたどり着き、その記憶を持って浮上した。

「そういえば、村人殺しの旅人が来た辺りに教会が改修されたと言っておったな。」


 それを聞き、

「やはり。」

 白頭巾のその声は誰にも届かなかった。



「ありがとう御座いました。」

「良い退屈しのぎになったよ。また、おいで。」

「はい。」

 ジャン爺さんのところを後にする三人。




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