第21話 市長宅、再び

 二人は昨日と同じ時間に教会に来た。


「おはよう御座います。」

 こちらも昨日と同じで教会の前で迎える神父。

「おはよー。」

「おはよう御座います。」


「今日は、この街の昔話聞ける人を紹介してください。」

 昨日のお願いと言ったのはこれらしい。

「解りました。」

 伝承を調べるのか? と思いつつ、

「どれ位、昔が良いのでしょう?」

「できるだけ、昔の話が良いわ。この街が造られた頃だと、最高なんだけど…。」


 少し考え、

「市長さんのところへ行ってみましょうか、街の人の事は詳しいと思いますから。」

「そうね。そうしましょ。」


「えっ。市長さんの所!?」

 驚くペーター。

「ペーターさん。何か問題でも。」

 その表情を見た神父が聞く。

「いやぁ、市長さんの所へ行くなら、朝御飯食べなきゃ良かったなって。」


 白頭巾の右手がまた振り下ろされた。

「バカ!」

「痛たたた…。暴力反対。」

 抗議は認められなかった。




 到着すとる使用人に市長がいる寝室に通される。


「お加減はどうですか?」

「何とか…。」

 神父の問に笑顔で答える市長。


「今日は何か?」

 見舞いに来たのではないと雰囲気で察したようだ。

「白頭巾さんがお話を聞きたいそうです。」

「お話ですか?」

「えぇ、この町の昔話とか伝承を聞きたくて。」

「なるほど…。」

「できれば、この街が造られた辺りが聞きたいのですが…。」


 考え始める市長。

「それでしたら、私よりも適任がおります。」

 側机の呼び鈴と取り鳴らす。


「なんでしょうか?」

 使用人が扉から入って来た。

「ジャン爺さんは、まだ息災(そくさい)だったな?」

「確かそのはずですが。」

「解った。」


 神父達に向き直り、

「ジャン爺さんに聞くと良いぞ。」

「ジャン爺さんですか…。」

「そうだ。」

「西地区で聞けば直に判るはずだ。」


「行ってみますわ。」

 ふと、何か思い出した様な顔になり、

「傷口を見ましょうか。」

 バスケットからアノ短剣を取り出し、いつでも抜ける様に腰に挿した。



 傷口を見ながら白頭巾は、

「順調みたいだけど…。」

 不意に短剣を抜いた。


「えっ!?」

 鈍く光る刃に、神父と市長が驚くのは当然だろう。


 白頭巾は短剣の腹…平(ひら)とも呼ばれる横の平らな部分を傷口に当てた。

「熱かったり、痛かったりはしない?」

「ないです。」

 答える市長の顔から嘘が無いと確認した白頭巾は、短剣を収めた。

「問題無いようね。」

 その言葉は市長と神父を安堵させた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る