第12話 視線

「ありがとう御座いました。」

 頭を下げた瞬間、白頭巾の背中を走る寒気。


(何!?)

 ひしひしと感じる。

(見られている?)

 目だけで周囲を探る。

(この寒気。いえ、殺気?)


 気を張り頭を上げる。

(この中に、今朝の奴の仲間がいるみたいね。どこ?)


 油断なく周囲の気配を探る白頭巾。


 また、露店から露店へと歩く二人。


 ペーターにしか聞こえない声。

「居るわね。」

 言ったが、

「何がです?」

 間の抜けた声とリンゴを噛じる音が返ってきた。


 聞いた自分が間違いだったと知り、

「何でも無い…。」

 それに答えたのは、またもリンゴを、噛じる音。


 殺気の視線は刺り続ける。

(どこにいるの?)

 この場の全ての人が怪しく思える。


 両手を塞ぐ林檎に視線を落とし、

(今、襲われたら勿体無い事になるわね。)

 悠長な事を考えていた。



 視線の質が変わった。


 殺気ではなく、自分を値踏みする視線へと。


(私を値踏みしている? 面白いじゃない。)



 不意に。


(視線が消えた?)


 今まで絡み付いていた視線が突如消えた。


(まあいいわ、ここに今朝の仲間が居るのが判ったし…。)

 俯き加減で、ニャリと笑うが誰にも見止められる事はない。


 歩き続ける二人は、広場の端、露店の切れ目に潜り込む。

 注意して見ないと気が付かない場所。


 ポーチに貰った林檎を入れ、入らなかったものはポケットに詰め込んだ。

「もう少し、街を見て回るわよ。」


 ペーターは二つ目の林檎を平らげていた。

「はーぃ。」

 残りをポケットに押し込んだ。

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