第11話 街中

 街中へ出た二人。


 前を行く、白頭巾が思い付くままに歩く。


 それ程、大きな街ではない。しかし、人口はそれなりにいる。

 余所者は目立つのは何処でも同じ

。それが、白い頭巾を被ったあどけない少女なら尚更だろう。


「こっちに行きましょ。」

「はい。」

 後ろを付いていくペーターは慣れたもの。


 歩みを進める度に、人が多くなり賑やかになる。

 そして、たどり着いたのは街の中心にある広場。


「やっぱり、朝市やってた。」

 歩く速度が若干上がったのは、気持ちの高揚から。


「こっちの方から賑やかな声が聴こえたと思ったのは間違い無かったわ。」



 露店には色々なものがあった。

 中でも果物、野菜の種類は多い。それを嬉しそうに見て回る白頭巾。


 逆に街の人達から白頭巾は見られているが、その事は全く気にしていない。


「あっ。見た事無い実がある。」

 一軒の露店の前に止まり、品定めを始める。

 顔を近付けると匂いを嗅ぐ。

「甘い匂いね。」


 白頭巾に興味津々の一人であった恰幅の良い女店主は、これ幸いと話かける。

「あんた、見ない顔だね。」

「うん。私、旅の途中なの。」

「その歳で旅なんて、何か事情があるんだね。」

「親戚のおばあさんが、病気になっちゃって…。」

 句切ると俯く。


 仰ぎ、続ける。

「うちのおばあさんが心配で心配でって言ってたから、私が代わりに見て行くの。」

 間を取ると女店主が『うんうん』と頷く。


「この街で迎えの人と待ち合わせなの。」

「偉いね。」

 後の男の子、ペーターに目が行き。

「弟まで連れているのかい?」

「うん。うちはお父さんとお母さん居ないから…、面倒は私が見てるの。」


 いつの間にか、白頭巾のいる露店には人集(ひとだか)りが出来ていた。


 口々に、

「偉いね。」

「まだ、若いのに苦労してるんだな。」

 同情の声を上げた。


「良かったら、お食べ。」

 店主が、匂いを嗅いでいた実を二つ差し出した。

「ありがとう御座います。」

 ペコリと頭を下げる姿に、その場の皆は可愛さのあまり見惚れる。


「これは、何という実ですか?」

「林檎なんだけとね。この辺りにしか無い種類なんだ。」

「へー。初めて見ました。」

 一つをペーターに渡した。

「味も違うのさ。食べてみな。」

「はい。」

 林檎の様な赤いほっぺで満面の笑み。


 また、皆は見惚れた。


『あーん。』

 噛じる口元に皆の視線が集まる。


 咀嚼(そしゃく)。


「美味しい…。今まで食べた林檎とは違う。」

「そうだろう。そうだろう。」

 店主は嬉しそうに言い、

「もう少し持っていきな。」


 手に取り白頭巾へと差し出す。

「良いんですか。」

「良いのさ。」


 二人はリンゴを、両手に抱える程渡された。

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