第13話 老神父


 二人は朝市を一回りし、その場から離れた。


 先の角を曲がると、変わった人集りが出来ていた。

 それは、老人を中心に子供達が集まっているというものだった。


 老人は服装から神父ではないかと判る。


 近付く前に声がかかった。

「そこのお二人さん。見ない顔ですね。」

 優しい声と言うものの代表の様な声だった。


 老人に近付くと、

「あぁ、解りました。貴方が噂のお二人ですね。」

「噂ですか?」

 驚く白頭巾。もう、噂になっているのかと。


「ここは辺鄙な所ですから、皆は新しい出来事に敏感なのですよ。」

 笑顔も優しい。

「そして、噂話が大好きと。」

 大声を出し笑う。


「そうでしたか…。」

 白頭巾は苦笑い。軽い下見の筈が、これほど目立っていたのかと。

「何でも、旅をしているとか。」

「はい。遠くの親戚まで…。」

 それも伝わっていた。


「では、旅の安全を祈らせてください。」

 返事を待たず。

「皆も、この方達の旅の安全を祈りましょう。」

「はーい。」

 子供達が一斉に返事をした。



 祈りが終わると、二人は子供達に取り囲まれた。

「ねえねえ。何処から来たの?」

「どこ行くの?」

「海って見た事ある?」

 一斉に質問された。


 子供達の好奇心に圧され戸惑う白頭巾。


 後ろで見ていたペーターは、

(珍しい。いつもの怪物相手と違って、流石のご主人様も子供には形無しだ。)

 それが、ニャニャとして顔に出ていた。


「これこれ。困らせてはいけない。」

 神父が子供達を止めた。

「はーい。」

 信頼の証なのか、質問が止む。


「失礼しました。」

「いえ。ちょっと驚いただけなので。」

 引きっつた笑顔で返す白頭巾。



「教会へ行きましょう。」

「はーい。」

「お時間があればお二人も寄ってください。」

「解りました。」

「では、ごきげんよう。」

 神父は子供達に囲まれながら去って行く。



 その背中を見詰めながら、不意に右手を振り下ろす白頭巾。

「痛!」

 小さな悲鳴。

「私が困ったのを見て笑ってたでしょ。」


 ペーターの、しまったと言う顔が、痛みの顔を上書きした。


 直に流れを変えた。

「今のは?」

「たぶん、手紙にあったマーシュ神父よね。」

「なるほど。高齢で引退するって事ですが、まだまだ元気ですね。」

「でも、元気な内に後任に譲りたい気持ちは判るから…。」


 白頭巾に、あの日の光景が蘇り、

「おばあさん。」

 小さく呟く。

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