第3話 お爺ちゃんの願い
俺たちが向かった横山さんの家には雀卓がある。もしかしたら、麻雀をするために居るのかもしれない。これで見つからなかったら俺たちは探すすべが無くなる。最後の希望は横山さんにかかっている。
「すみません!」
「あら、どうしたの。こんな時間に珍しいね」
「うちの爺ちゃんきてませんか?」
「一緒に麻雀やってたところだよ。あ、人が足りないんだよ。翔太君も一緒にどうだい?」
「俺、そんな強くないからな・・・・・・」
「良いから、良いから。ささっ、こっちにおいで。
というわけで、俺、横山さん、爺ちゃん、横山さんの奥さんの4人で麻雀をすることになった。俺のとこに居たのは先ほど話した明子さんだったようだ。生前は店が終わると全員ここに集まり、毎日のように麻雀を楽しんでいたようだ。横山さんにもお爺ちゃんは見えているらしい。
「孝蔵さんの最後の願いが、まさか麻雀だったとはな」
「いやぁ、最後だからこそいつもどおりの生活をしたいじゃないか」
「麻雀が生活の一部になってるんだから、俺たちは依存症だな」
こんなに明るく話しているが、麻雀が終わればお爺ちゃんはまた戻らなければならないのだろう。その悲しさを忘れられるようにこの一手一手を大事にやっているのがわかる。
「ロン!」
「やっぱり、孝蔵さんは強いな」
「そうかい、ありがとうねぇ」
結果は1位、お爺ちゃん。2位、俺。3位、横山さん。4位、横山さんの奥さん。だった。これでお爺ちゃんは居なくなってしまうのかもしれない。そう思うと、また涙がこみ上げてきた。そんな姿を見たお婆ちゃんにまた頭をなでられる。
「まだ居なくならないから安心しなさい」
「え? だって、麻雀は・・・・・・」
「俺の最後の願いは、いつもどおりの生活を1週間することだ」
「なら、まだ一緒に居られるの・・・・・・?」
「あぁ、心配しすぎだ」
本当に良かった。最後に伝えたかったことが山ほどあったから。本当に・・・・・・本当に・・・・・・良かった・・・・・・。
「今日はオールでやるか!」
「おぉ、やるか!」
え? まさかオールナイトってこと? この年寄りども、大丈夫なの? 結構アルコールも入ってるし・・・・・・。
オールナイトの結果、俺は次の日1日中眠たい状態ですごす事になった。そんな俺にお爺ちゃんは「お前なんで眠たいんだ?」と言ってくるのである。本当に化け物である。しかし、急にまじめな顔になり、
「翔太、俺の本当の最後の願い聞いてくれるか?」
こんなに真剣な顔で言ってきたことは初めてだった。
「う・・・・・・うん」
「これは本当に大切なことだ。お前の将来がかかっている。それでも本当に大丈夫か?」
ここまで確認してくるのは本当に初めてのことだ。しかし、何であろうと俺は受け入れる決心をした。
「うん、大丈夫」
「よし、それでこそ俺の孫だ」
お爺ちゃん、いや孝蔵さんの最後の願い。ここまで確認したのだから相当なものだ。
「お前は、魂の最後の願いを叶える仕事を任せたいんだ」
「魂の願い・・・・・・」
「そんな重く考えなくても良い。つまり、俺のような死に損ないを助けるだけだから」
俺はそんなに重要なことを話されるとは思わなかったが、最後の願いだ。叶えるしかないだろう。
「分かった。やるよ」
「ありがとう。お前に渡すものがあるんだ。ついてきてくれ」
お爺ちゃんが向かったのはこの家に昔からある
「これを着てくれ。そうすればお前は魂がすべて見えるようになる。そして、この着物を着れば、他の人には女の人にしか見えなくなる」
「魂が見えるようになる」その言葉が頭の中を何度も駆け巡る。しかし、さっき俺は決心したはずだ。なんとしてでも俺はこの願いを受け入れるつもりだったはずだ。
「最後に、約束してくれるか?」
「うん・・・・・・」
「これをお前に引き継いだら俺は魂が見えなくなる。そして、この記憶もすべて忘れてしまうんだ。この事を誰にも絶対に話さない。もちろん俺にもだそれを約束してくれ。この帯をお前に渡し、俺がこの部屋から出たらもう忘れているはずなんだ。俺の最後の願いだ」
お爺ちゃんの最後の願い。それは、魂を見送る仕事の引継ぎ。俺に帯を渡し、最後に一言を遺した。
「これから、孤独で何にも分からないお前に助けを求めに来るやつらが居る。最初は中々出来ないかもしれないけど、自分でゆっくり考えるんだ。お前はお前らしくその仕事を全うしてくれ」
そしてふすまを開け、行ってしまった。孤独にしてしまうことを後悔しながら・・・・・・
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