第2話 2018年9月3日 昼時 東京都港区高輪 鴉鷺商事本社 リクライニングルーム 喧騒

 サバイバルコンペティションフロアと地続きも、主に飲食向けの独立したリクライニングルームは日当たりが良く、兎に角憩いの場だ。


 俺の食後は、未だ使い続けるiPod nano 16GB第6世代レッドでU2のバラードのプレイリストを、音量を限りなく低めに聞き、目を瞑る事だ。浅い睡眠がプラス20分でも、思考を止めらえるの非常に有難い。ただ悪夢を見ると、和泉女史が何故か飛んでは来るが。

 今日も、それこそ心地の良い午後の始まりだったが、孫紅華の頬笑み以降、様相は変わりつつある。

 火曜日からどうした事か、ただの喧騒がやって来た。

 上下の階、いや見知らぬ声もあるから、どこかの階からもで、リクライニングルームはごった返す。


「おいおい、空いてるテーブル無いのか。飯食えないのかよ」

「ここから見える富士山最高なのにな」

「いいから、食い終わったら出て行けよ。君とかさ、なあ」

「言うな、正社員様もいるんだぞ」

「止めとけ、今ふて寝してるからさ、はは」

「ふふ、誰かな。説教臭いU2を聞いてるなんて。凄い笑える」


 まあ、俺らしき人物が現れているが、無視だ。


 不意に左腕が優しく掴まれ、ゆっくり目を開ける。そこには昼寝仲間の東京2020調達プロジェクトの阿川課長代理がただ首を振る。

「うるさくても、三船は寝てろ」

「阿川さん、」思わずインナーヘッドホンを外すも。

「いいから。一日中仕事出来るなんて、到底無理なんだよ。時間があったらとにかく寝るんだ。いいな」

「はあ、そうですか」

 何と言うか、鴉鷺商事は36協定をまるで無視している。みなし諸手当でどう乗り切ってるか、本当に不思議でしょうがない。

 そう、さすが阿川さんになる。サバイバルコンペティション5度目の参加の猛者は違う。恐らく、俺はこの会社にいるかぎり、この背中を追うだろう。


 阿川課長代理が、立ち上がり声を荒げる。

「うるさいぞ。俺達は定時でも帰れないだから、少しは眠らせろ。分かったな、おふざけは一切無しだからな」思いっきりドアを開いてはリクライニングルームを後にする。


 暫し、静まった喧騒も今度は倍の音量で沸き返る。自らの行動を無理に最適化したいのか、駄々っ子は大人になってもか。


 まあ、今日もまた、これからもか。喧騒も何だが、一同に介した手持ちの弁当のやたら香料のきついにおいで、寝れる筈も無いが、ここは根気だ。やはり眠らないと緊張感がデスクワークで凝り固まる。

 俺は再びインナーヘッドフォン戻すと、『40』の流れる様なトラックが再生されている。物心がついて、これまでにも最悪な事件は幾つもあった、ただ信じればこそnew songはいつも授けられるものだ。

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