ビアバー&チョコレート 「ぜんぶ……いっちゃう?」

・一話完結スタイルです。

・気になる種類のビールやお店のお話からどうぞ。

・ふんわり楽しくお気軽に。難しいことはほとんど出てきません。


今年の春から社会人になった”舞浜みつき”は、ビール好きの教育係”常陸野まなか”から、日本には大手メーカーが作る以外にもいろいろなビールがある事や、その場で作られたビールをすぐに飲めるお店が身近にある事を教えられる。


そんなみつきが、ふんわり楽しくお気軽に、先輩や同僚たちといろいろなお店でいろいろなビールを飲むうちに、いつのまにかビールの知識がついたりつかなかったりする物語。


 § § §


「あっ、今日ってバレンタインデー?!」


 唐突に、昨年春に社会人になったばかりの、舞浜みつきが声を上げると、隣に座るみつきの教育係、常陸野まなかに問いかけた。


「まなかさん。うちの部署って、チームメンバーにチョコレート配ったりしないんですか?」

「……うん、数年前に室長が『部門メンバー全員に配ったりお礼したりするのは虚礼だー! 廃止だー!』って。でも、個人的には禁止されてないから……みつきちゃんは毎年チョコ、送るの?」

「えへへ、わたし、今日がバレンタインデーって気がつくくらいズボラなので……。あ、でもでも、まなか先輩にはいつもお世話になってるので、この機会に何かお礼したいなー、とは思ってます!」


 照れながら頭をかくみつきに、まなかは柔らかな笑顔を向ける。


「ふふ……ありがとう。気持ちだけいただいておくね……ところで、みつきちゃん。もしチョコレート好きだったら、今日定時後、どうかな?」

「ぜひぜひ! それじゃあ今日はいつも以上に仕事、頑張ります!!」


 みつきは、百貨店の催事場でまなかの好きなチョコレートを一緒に探すぞという決意のもと、力強く返事をした。


 §


(おぉぉ、百貨店でチョコレート巡りじゃなくて、こちらだったのですね……)


 みつきが連れられてきたのは、みつきの通うビールの専門店である。30種類ものビールが繋がっていて、ビールに特化したバー、ビールバーやビアバーなどと呼ばれることもある。


「いらっしゃーい。好きな席に座ってー。おいしいチョコ、揃ってるよー」


 みつきとまなかの姿を見かけると、店員の川越毱花がにこやかに2人に声を掛けると、不思議な言葉を残して他のテーブルの接客に向かう。

 店内はいつもより混雑しているが、2人はいつものカウンター席に並んで座ることができた。


「まなかさんもしかして、今マリ姉が言ってたおいしいチョコって……」

「……そう、チョコレートビールが今日たくさんつながっているの。ほら……」


 そう言ってまなかが指差すメニューの一角には、フルーツビールや白ビール、黒ビールやIPAといったビール別の分類のほかに、バレンタイン特別企画という枠が。


「ええと、なになにー。ミルクチョコレートスタウトにストロベリーチョコレートスタウト、杏仁チョコレートスタウト、バナナチョコレートスタウトに、ダブルチョコレートボック!? チョコレートの名前がついたビールがこんなに。すっごーい!!」

「うん……最近はこの時期に、いろいろな醸造所がチョコレートにまつわるビールを造るようになって、楽しいの。チョコレートで作ったグラスとチョコレートビールを、セットで通販しているところもあるんだよ……」

「ひゃー、チョコレートのグラスですか! ちょっと楽しそう」


 おどろくみつきに、いたずらっぽい表情を向けながらまなかが問いかける。


「醸造所さんによって、味わいも違って楽しいよ。ぜんぶ……いっちゃう?」

「もちろんです!!」


 元気一杯の返事に、とても嬉しそうな笑顔を咲かせるまなかを見て、百貨店でのチョコレート巡りよりも、こっちのほうが先輩に喜んでもらえているのかもしれないなあ、お礼になっているといいなあ、などと思うみつきだった。

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