ビールバーのイベントとサワーエール 「んん? ビールなのにサワー??」

・一話完結スタイルです。

・気になる種類のビールやお店のお話からどうぞ。

・ふんわり楽しくお気軽に。難しいことはほとんど出てきません。


今年の春から社会人になる 舞浜みつき は、ビール好きの教育係 常陸野まなか から、日本には大手メーカーが作る以外にもいろいろなビールがある事や、その場で作られたビールをすぐに飲めるお店が身近にある事を教えられる。


そんなみつきが、ふんわり楽しくお気軽に、先輩や同僚たちといろいろなお店でいろいろなビールを飲むうちに、いつのまにか知識がついたりつかなかったりする物語。


  § § §


「いらっしゃーい、好きな席に座ってー」


 ビールバーの店員である川越毱花は、和やかな笑顔で常連の常陸野まなかと、その後輩の舞浜みつきを迎え入れた。2人は挨拶を返しながら、いつものカウンター席に座る。


「マリ姉、先日のビールイベント、ご一緒させていただいて、ありがとうございました!」

「いいのよみつきちゃん、っていうか、こちらこそへべれけになっちゃって。面倒見させちゃってごめんね……あっ、はーい、いま行きまーす! 2人とも、今日のうちのイベント、楽しんでいってね!」


 先日、皆で参加した日本最大級のビールイベントについてお礼を言われた毬花は、忙しそうに他のお客さんのオーダーを取りに向かった。


「まなかさん、今日のイベントって、どんなのなんですか?」

「うん……イベントといっても時期やお店によっていろいろあるんだけど、今日ここでやってるのは、タップ テイクオーバーっていうイベント、だよ。タップはあのビールを注ぐところのこと。テイクオーバーっていうのは、引き取るとか乗っ取るとかの意味があるの。だから、普段はいろいろなビール醸造場の種類を飲めるお店のタップが、1つの醸造場のビールで占領されちゃうよ、っていうのがタップ テイクオーバーったいうイベント」

「なるほど! この前行ったイベントみたいに、種類がすんごく増えるのかと思っちゃいました(笑)」

「お店によってはそういうイベントもあるかもね。他にも、オープン何周年とか、年越しカウントダウンイベントを開催してるお店もあるよ」

「ふぇー、いろいろあるんですねえ。もしかしてまなかさん、今日はこのイベント目当てだったりします?」

「……うん、気になってたビールがつながるみたいだし、今日は醸造家さんが来るみたいだから、面白いお話、聞けるんじゃないかなって──ほら、みつきちゃん、何飲むか決まった?」


 イベント目当てだったことを当てられたことが恥ずかしかったようで、まなかはその照れを隠すようにみつきにメニューを渡した。


「んー、今日はどうしようかなあ……今まで飲んだことない種類に挑戦したい気分──って、んん? ビールなのにサワー??」

「サワーエール……だね。えっと、居酒屋さんとかのみかんサワーとか甘いのとはまた違うものなの。みつきちゃんは、梅干しとか、酸っぱいものは苦手じゃない?」

「はい! おじいちゃん子だったのでむしろ大好きです!」


 まなかは、おじいちゃん子=酸っぱいもの好きではないよなあと思いながら会話を続けた。


「ええとね……サワーってもともと、酸っぱいっていう意味なの──」

「酸っぱいビール!! 私、それにします!」


 前のめりになったみつきに苦笑を返しながら、まなかはタイミングよく戻ってきた毱花にお願いした。


「マリ姉、16番と、あと12番と3番ハーフでお願いします」

「はーい、オーダーいただきましたー」


 毱花の声が店内に響き渡った。


 §


「おぉぉ、酸っぱい!!」


 みつきは顔をくしゃりとすぼめつつ、言葉を続ける。


「あ、でも乳酸菌飲料的な感じもあって、面白いですねこれ」


 そう、感想を述べたみつきに、まなかは笑みを向ける。


「そうなの……いろんな味のいろんなビールがあって、その時そのお店でしか出会えない……だからつい、来ちゃうよね」

「一期一会、ですね──はぁー。なんだか、おじいちゃんちに行きたくなっちゃいました」

「有給、ちゃんと取るの、義務だからね。会いに行ってあげるといいよ……ちなみに、どちらなの?」

「静岡の伊豆です!」


 地名を聞いた途端、まなかの瞳が輝く。


「いいなあ! 醸造場がいくつかあるよ。作りたて、飲めるの」

「えっ?! そうなんですね! どうせなら、みんなで温泉入ったりしながら醸造場巡りとか……」

「行きたい!!」


 まなか満面の笑みを浮かべながら、提案に前のめりで乗る。そんなまなかを見て、ビールが恋人状態のまなかには、下手な男子が寄り付く隙はないんだろうなあとしみじみ思うみつきだった。

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