ビールイベントって何?! 「北与野に、きたのよー!」
・一話完結スタイルです。
・気になる種類のビールやお店のお話からどうぞ。
・ふんわり楽しくお気軽に。難しいことはほとんど出てきません。
今年の春から社会人になる 舞浜みつき は、ビール好きの教育係 常陸野まなか から、日本には大手メーカーが作る以外にもいろいろなビールがある事や、その場で作られたビールをすぐに飲めるお店が身近にある事を教えられる。
そんなみつきが、ふんわり楽しくお気軽に、先輩や同僚たちといろいろなお店でいろいろなビールを飲むうちに、いつのまにか知識がついたりつかなかったりする物語。
§ § §
「凄い! 同じビールなのに、こっちはシュッとシャープに、こっちはなんか味が感じにくい……」
今年新社会人となった舞浜みつきは、みつきの教育係の常陸野まなかの部屋で、グラスの飲み比べをしていた。まなかは30種類ものビールが繋がっているビールバーに日々通う、ビール大好きOLである。ビールに苦手意識を持っていたみつきに、美味しい・おもしろいと感じるような意識を感じるきっかけを与えた師匠? でもあった。
「……そうなの。グラスの形によって、味が感じやすいものや、香りが感じやすいもの、苦味を感じにくくするものとか、色々あるの。良し悪しじゃなくて、合う合わない。ね? 自分にあうもの、探してみてね、みつきちゃん……着くよ、みつきちゃん……みつきちゃん、そろそろ駅につくよ……」
何か急にまなかさんが肩を揺さぶりはじめるし、よくわからないことを言いはじめたなあ──と、みつきが思っていると、今までまなかの寮部屋にいたはずの視界がぼやけ、電車のボックスシートに座っている自分の太ももが目に入った。ヨダレもたれていたと気がつき、慌てて口元をぬぐう。
「あ、ごめんなさい……寝ちゃってました……」
みつきの言葉に、まなかが通うビアバーの店員、川越毬花がニヤリとした顔を向ける。
「みつきちゃんは、ビール祭りのために体力温存してたのよね?」
みつきはタハハ顔で応じる。
「いやー、昨日の夜、どんなビールがあるのかホームページで調べてたんですけど、あまりの数だしビールの知識がないしで、結局どれを飲めば良いのか悩んでしまって──だからなのかわからないんですけど、この前開いていただいたグラス飲み比べ会の夢、ちょうど今見てました」
毬花はウンウンと頷く。
「どれを飲むべきかなのではない。飲んだなかでどれを好きと感じたかなのじゃ。しかしそなた、夢の中でもビール研鑽とは良い心がけじゃ。そなたには、まいニャンの称号を授けよう──って言ってるうちに駅に到着! みんな降りるよー」
「「「はーい!」」」
彼女らが向かっているのは、さいたま新都心駅と北与野駅に挟まれ、さいたまスーパーアリーナをすぐ横に仰ぎ見ることのできる、さいたま新都心の中心に位置するけやきひろばである。
ここで5月と9月の年に2回、それぞれ5日間にわたって、日本全国のビール醸造場や、海外の輸入ビールなどのブースが出展する、日本最大級のビールイベント「けやきさんのビール祭り」が開催される。
先日まなかの部屋で開催された、グラス別ビール飲み比べ会が開かれた際に、ビールイベントに皆で行こうということになり、今日に至るのだった。
ホームに降り立つや否や、普段の人見知りの気はどこへやら、突然まなかが両腕を空にあげる。
「……北与野駅に、きたのよー!」
「のよー! っス!!」
まなかに続いて、みつきの同僚であり、毬花の妹である川越瑠璃の突然の声が、さいたま新都心駅のホームにこだました。
そんな2人にみつきがツッコミを入れる。
「えっ、ここ、さいたま新都心駅じゃ──」
みつきは赤面して俯く。
「……恒例というか、お約束というか──普段は私、北与野駅からくる、から……」
「はいはい、みんな行くよー! 飲むよー!」
そう言ってバッサリ毬花が皆を急かすのだった。
§
駅の改札を出てすぐ、みつきは目の前に広がっ光景に圧倒されていた。そこには、数えられきれないほどのテントが広がり、昼前にも関わらず、多くの人が楽しそうにビールを飲み交わしている。店頭には青やピンクなどの変わった色のビールや、日本各地の料理の写真がメニューがわりに貼られている。
「すっごい! 午前中なのにもうこんなに人が……それに、このテント1つ1つって、ビールを作ってる方達なんですよね?」
「うーんとね、ビールバーの出店もあるから、厳密に言うとそうじゃないんだけど、ほとんどがそうだよ。私は醸造所の皆さんに軽く挨拶回りしてくるから、あとで合流するね!」
目を丸くして問いかけたみつきに毬花さらりと答えつつ、人混みの中に消えていった。
数十分後、芝生スペースに広げたまなか持参のレジャーシートの上には、まなかとみつきと瑠璃。そして、たくさんの飲み比べセットと、各地の名物料理が広がっていた。
そこに、挨拶回りを終えた毬花が戻ってきた。なぜかドイツの民族衣装ディアンドルに着替え、手には飲み比べセットとコンビニの袋を下げている。
「あー、いたいた! お水買ってきたよん。みんな、楽しんでるー?
挨拶回りから戻ってきた毬花が尋ねると、まなかはビールを飲みながらコクコクと頷いていると、瑠璃がツッコミを口を尖らせる。
「もー、まりちゃん遅いっスよー。でも取り返そうとしてへべれけないでくださいよ心配させないでくださいよー」
瑠璃に向けて笑顔を見せながら、袋から2リットルのペットボトルに入った水を2本取り出してみせる。
「はーい、ビール飲んだのと同じ分しっかりお水飲むから大丈夫よー。じゃみんな、改めてかんぱーい!!」
こうしてメンバーが揃い、ビールイベントの幕が開いた。しっかりとビールと同量水を飲んでいた毬花が案の定へべれけになり、近くにある、屋内グランピングなどもできる温泉施設に皆で一泊したのは、また別のお話……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます