酔っ払いな戦闘姫 6

 カランカラン。

あたしがドアを開けると、ママが心配気にこっちを見て言った。

「どうだったの?  ちゃんと伝えられたの?」

 あたしは虚無感からくる放心状態で答えた。

「好きなんだって」

 ママは、パッと明るい顔になって、駆け寄ってきた。

「良かったじゃないのよ、あんた! 両想いだったなんて素敵ね!」

「うん。両想いみたいだよ」

「あたしも背中を押した甲斐があったわ」

「あたしじゃなくて、ママとね」

「そう、あたしと……。ん? あんた今何て言ったのかしら?」

「鈴木さんはママが好きなんだって。恋愛対象として」

「……」

 あたし達は暫く沈黙したあと、ママがようやく口を開いた。

「ちょっと待って。整理しようと頑張ったんだけど、何か頭が回らないわ」

「はあ……。ママ、お酒ちょうだい。強いやつ。飲みながら話そ」

「ああ、そうね。そうしましょうか」

 あたし達は、さっきまで楽しい時間を過ごしていたテーブルに戻った。

 ママは、何か強そうな茶色のお酒をあたしに出してくれた。

 あたしは本当に強いじゃんと思いながら、最後の鈴木さんとの会話を話した。

ママは黙って聞いていた。

 そんなママにあたしは言った。

「だったら、ママに告白すれば良かったじゃん。あたしに言うなよって話でしょ! まさか鈴木さんがそっちの人だったなんて」

「そうね。あたしも気づかなかったわ。大抵わかるんだけどね」

「正直あたしはしょうがないわよ。悔しいけど。でも、ママに言わないのはどうなよ! せっかく両想いだったのに。言えば上手くいってたでしょ? 何でなのよ! ただの意気地無しじゃん」

 ママは優しい顔と声で、あたしに答えた。

「あんたは優しい娘なのね。本当は自分も辛いのにね。でもね、鈴木さんの言えなかった気持ちも分かるわ。わたしもそうだけど、同じ人種って分かってればともかく、そうじゃないとハードル高すぎるのよ、告白って。簡単に好きって言えないのよ」

 あたしが黙ってるとママは続けた。

「あんたにだけ言ったのもね、それだけあんたを信頼してたからよ。わたしもそうでしょ? わたしのことはあんたにしか言ってないんだから。きっと、あんたはこっちの人間に信頼されやすいのね」

「そんなのちっとも嬉しくない」

「それにね、鈴木さんから告白されても、わたしは受けなかったわ。前に言ったでしょ。お客様から始まる恋はしないって」

「そんなこと言ってたら、一生恋できないじゃん」

「仕事が絡まなきゃ別よ。まあ、中々機会はないけど。それに今回はこれで良かったのよ。わたしも久しぶりにドキドキしたわ。その感覚を与えてくれた、鈴木さんには感謝してるわ」

 あたしは釈然としないまま、グラスのお酒を一気に煽った。

「もう一杯ちょうだい」

「ちょっと、大丈夫なのあんた」

「いいから、ちょうだい」

 ママは呆れながらも出してくれた。

 ん? あたしは、ふと気がついた。

ママが鈴木さんと最後に飲んだお酒のボトルをみつめてるのに。

「どうしたの? そんなにみつめて。シャ、シャなんちゃらのボトル」

「シャルトリューズよ」

「そう。それ」

「このお酒はね、代々三人の修道士だけに製法が受け継がれるの。そしてその三人も、自分以外のハーブの調合は知らないのよ。三人が秘密の調合で作ったものを一つに合わせて、このお酒ができるのよ」

「だからね。鈴木さんはきっと思ってたのよ。三人のそれぞれの想いが重なった時間はとても大切だったと。だから、このお酒を選んだのね。自分の打ち明けられない秘密にも絡めてね」

 そんなもんかなあ、とあたしは思いながら、一つ納得のいかないことをママにぶつけた。

「ところで、何であたしがママを好きなことになってんだろうね」

「あら、あんたわたしを好きなの? ごめんなさいね。わたし小娘に興味ないから」

「ふざけんなあ! あたしもオッサンに興味ないわ!」

「ちょっと、誰がオッサンよ! あたしは熟女よ! はん。わたしに負けて悔しいのね」

「あたしは負けてないから! 何がお客様から始まる恋はしないだ。あんだけのぼせ上がってたくせに。いい歳してキモいわ!」

「なんですって! 小便臭いガキに言われたくないわよ!」

「誰が小便臭いのよ! そっちこそ、そろそろオムツでも履いたら!」

「キーっ! 偉そうに、このヘタレ戦闘姫!」

「なによ! 色ボケマスター!」

 はあ。

あたし達はため息をついた。

「ねえ、ママ。鈴木さんって、いい人だったけど、とんだ思い違い野郎だったよ。あたしにとってはね」

「そうね。でもいい人なことは確かよ」

「そうだね。それは確かだね」

 少し黙ってあたしはママに言った。

「シャルトなんちゃらちょうだい! それ全部空けて、忘れてやるから!」

 ママはそんなあたしに優しく言った。

「これ度数結構あるのよ。あんた一人じゃ無理だから、わたしも付き合うわ」

そして、鈴木さんからもらったグラスに注いでくれた。


 今夜の反省会はまだ終わらない。

反省はしても後悔はしない。

あたしは恋愛戦闘姫。

領空侵犯は全て撃ち落とす。

まあ、今回も失敗しちゃったけど。

次回はみてなさいよね!


 終わり

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恋愛戦闘姫(可憐な乙女な訳じゃない) 九丸(ひさまる) @gonzalo

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