酔っ払いな戦闘姫 3
日付が変わる頃、お客さんも引けて、お店にはあたしとママの二人だけに。
ダンッ! あたしは、グラスを強めにカウンターに置き、ママに言った。
「話があるから、ちょっとこっちに来なさいよ」
「あら、やだ。何をそんなに怒ってるのよ」
すっとぼけは許しません。
「あたしの言いたい事は、分かるわよね? この色ボケマスター!」
「ちょっと、色ボケって失礼ね! この小娘が! それに、マスターはやめてって言ってるでしょ!」
「何が、解放されたい時もあるだ。解放されっぱなしじゃないのよ! 出来ない使い分けなんて、やめてしまえ!」
「あら、やだ。わたしに取られそうで怖いのかしら? 小娘ちゃん」
「ふざけんなあ! オッサンに言われたくないわあ!」
「誰がオッサンよ! 失礼しちゃうわね! わたしは熟女よ!」
「そんながたいのいい熟女いるかあ!」
そんな言い合いが暫く続いたあと、あたしたちは疲れて、お互いにため息をついた。
「わたしのことは、さておき。ねえ、あんた本気で狙ってるの?」
「あたしは本気よ。だって、直感が行けって言ってるから」
ママはあたしの答えに、呆れて返す。
「あんたねえ、その、圏内に入ったら撃ち落とすみたいなのやめたら? そりゃあ、数撃ちゃ何とかって言うけどさあ」
「お言葉を返すようですが、あたしは数なんて求めてないから。質の良い男が入って来た時だけ、あたしのセンサーが働くのよ。それよりも、わたしのことはさておかなくて、ママはどうなよ?」
ママはため息をついて答えた。
「わたしも、鈴木さんは良いと思うわ。チャラくないし、知的で、しかも、笑った顔がかわいいのよねえ」
「やっぱ、狙ってんじゃん!」
「そうね。わたしのテクでメロメロにしてあげたいわね」
「オッサンのテクなんて求めてないから」
「あんたみたいな、若さと身体だけの粗雑なそれとは違うのよ。虜にする自信はあるのよねえ。まあ、そうはいっても、わたしはいけないから、心配しなくていいわよ」
「心配してないし。横からウザイだけ。でも、一応理由はなんで?」
ママは少し黙って、寂しそうに答えた。
「わたしはね、お客様から始まる恋はしないことにしてるの。バーテンダーのわたしを好きで来てくれてる人の夢を壊したくないのよ」
あたしはその答えに、黙ってしまった。
「はあ、わたしにあんたの若さと容姿があったらと思うわ。でも、神様はそれを与えてくれなかった。不条理よねえ」
「不条理といえば、あんたは見た目も、まあ、綺麗だし、スタイルも悪くないのに、何で男ができないのかしらね? 性格かしら?」
「性格もいいし! 『まあ』なんて挟む余地ないくらい綺麗だし!」
「あんたは攻めてるようでいて、固いもんね。ちょっとやらしたら、大抵の男は落ちるんじゃないの?」
「簡単にやらせるわけないでしょ。あたしは自分のことを良く分かってるから。見た目は綺麗だけど、しょせんそこそこなのよ。ママの言う通り、『まあ』なのよ。確かにやらせたら落ちるんだろうけど、そんな男はすぐにもっと見た目が良い女にいくから」
「あんた、結局まだ気にしてるのね。女は忘れる生き物なのに」
あたしはママに何も言えなかった。
ママが言った、あたしの気にしてること。
よくある、ありきたりな話。
お互いに好きだと信じてた男に浮気されて、その相手があたしよりも見た目が良い女だったってだけの話。
男との始まりは、うっかりな身体の関係から。そして、そんな男は、また身体から始まる関係に旅立ちましたとさ。
だから、身体は安売りしない。
それから、あたしは自分を良く知ることから始めた。この切れ長の目も気に入ってる。スタイルも悪くない。綺麗系だけど可愛さもある。でも、80点位。まあ、贔屓目にみてね。それ以上の女には勝てないかもしれない。だから、あたしはフルスペック使えるように、自分を知ることから始めたの。100点持ってるのに、70点位しか使えてない、油断してる女に負けないように。
そして、質の良さそうな男を見たら、落としにかかるようになった。成果が表れてないのは痛いけど。例え間違ってても、今はトライ&エラーで良いと思ってる。動かないよりはね。
そんなあたしを見て、ママがある時言った。
「あんたは恋愛戦闘機ね。あ、機械の機じゃなくて姫にしといてあげる。しかも、操縦悍は壊れたんじゃなくて、捨てたのね。だから、圏内に入ったら自動で撃ち落としにかかっちゃって」
そう。あたしは捨てたんだ。ついてても意味のない操縦悍なんて。代わりに高性能AI搭載だ。自称だけどね。
「鈴木さんは、久しぶりに現れた、本当に質の良い男なはずよ。必ずものにするわ。そして、あたしは幸せになるの!」
あたしの宣言を、ママは、はい、はいと聞き流していた。
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