酔っ払いな戦闘姫 2

 あたしの実は悩んでもいない人間関係の話を、鈴木さんは真摯に聞いてくれてる。

 そんな鈴木さんを見てると、ますます、引き込まれていく。

「マスターはどう思いますか?」

「私はいっそのこと、もっと本音をぶつけてみるべきだと思いますね」

 ああ、鈴木さんの声だけでいいのに、ママの無駄に渋い声が邪魔をする……。

もう! 何なのよ!

 もちろん、あたしの苛立ちなんて、顔に出せるはずもなく、二人のアドバイスに、ええ、そうですねと頷いていた。

「悩み事は誰にでもあります。でも溜めちゃいけないと思うんです。だから、愚痴でも相談でも何でもいいです。吐き出してください」

 鈴木さんの優しさに触れていたい。

このままずっと……。

「私もそう思いますね。誰かに話すことは、とても大事です」

 鈴木さんの後に、お約束のように入るこの声。

本当に邪魔!

覚えてなさいよ。この報いはきっと!


 話もそろそろ終わりかと思われた頃、ドアベルが鳴り、お客さんが三人で入ってきた。

「いらっしゃいませ。どうぞこちらに」

 ママが対応で離れた隙に、あたしは鈴木さんに話しかけた。

「鈴木さん、話を聞いてくれて、本当にありがとうございました。凄く楽になった気がします」

「それなら良かった。僕の話なんて、マスターに比べれば幼稚極まりないですが、そう言ってもらえると嬉しいです」

「ううん、そんなことはありません。歳も近いせいか、同じ悩みを共有してるみたいで、とても親近感わきました」

「僕もこちらに来て、まだ知り合いもそんなにいないので、高橋さんみたいな方と話せて良かったです」

「あの、お願いがあるんですけど」

 タイミング的には今なはず。

「鈴木さんの連載先を教えていただけませんか?」

「僕のですか? ええ、構いませんよ」

 はい、いただきました。あたしの領空に入ったからには、ただでは終わらせない。頂くものは頂きます。

そう。領空侵犯は全て撃ち落とす。それがあたしの流儀。まあ、逃げられることも多いけど。


 連絡交換も無事に終わり、二人でとりとめもない話をしたあと、鈴木さんは、明日早いのでとママにお会計をお願いした。

 お会計が済み、席を立った鈴木さんは、あたしを見て言った。

「高橋さんは、まだ飲んでいかれるんですか?」

「はい。もうちょっとだけ飲んでいきます」

 ここで、一緒になんて野暮なことはしない。

急いては仕損じる。

それに、あたしにはやることがある。

あのオッサンと、とことん話すという。

「そうですか。あまり飲み過ぎないでくださいね。今夜はお話できて、本当に良かったです。また、一緒に飲んでください」

「はい。わたしで良ければ、ぜひ」

 引き際のスマートな男は好きだ。

そんな鈴木さんに益々引かれる。

「マスター、ごちそうさまでした。また、お邪魔させてください」

「鈴木さん、ありがとうございます。私もお待ちしてます」

 おい、『私もお待ちしてます』に、やけに熱がこもってないですかね。

だいたい、そのセリフいらなくない?

 入口まで出るママに、丁寧に送られて、鈴木さんはお店を後にした。

 戻ってきたママに、

「マスター、なんかください」

と棘のある声であたしは言う。

「お客様、だいぶお飲みになってるようですが、大丈夫ですか?」

「ええ、ぜんぜん大丈夫ですから」

 ママの顔がちょっとひきつっている。

あたしを帰そうたって、そうはいなかい。

「かしこまりました」 

ママは渋々答えた。

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