§4 知識を与えて与えられ
「その前にまずは今、僕がおかれている状況についての説明がほしいのですけれど」
とりあえず一人称を僕にして、丁寧語で聞いてみる。
『私が使っている通訳
なるほど、そんな魔法があるのか。
確かに今聞こえている声じゃない声は単語によって意味がぶれて聞こえるし。
魔法と聞こえているのに
でも念の為、もう一つ質問をしておこう。
「その魔法を使った結果、思考様式や思想、今までの知識等の変化はありますか」
『そのような副作用は今のところ報告されていません。単に知識が増えるだけです』
その言葉を証明する事は出来ないだろう。
でももし害意があれば今までにいくらでもそれを行使する機会はあった筈だ。
ここは相手の善意を信用する事にしよう。
「それではお願いします」
『わかりました。少しだけショックがあると思いますが、心配しないで下さい』
ふっと何かを感じた。
ぎりぎり頭の中が震えるような熱を持つような感覚。
ちょっと意識をその辺りにやる。
コマ送りみたいに色々な画像が猛速度で瞬いては消えてを繰り返していた。
目眩がして机に両手をつく。
目を閉じて瞬く画像から意識を離す。
少しだけ落ち着いた。
でも目を開けない方が楽な感じがする。
両手に力を入れて耐える。
数秒なのか分単位なのか感覚がわからない。
唐突に静寂が訪れた。
俺は目を開ける。
「
理解した。
元の世界へ戻る方法は現状では存在しない事を。
この世界と元の世界を例えるなら、崖の上と下。
下に落ちることは簡単だが上に這い上るのは困難だ。
更にこの世界はあちこちの世界から”落ちて”来易い世界らしい。
この国でも年間数件はそういった事象があるようだ。
「わからない事に対して私に質問しても無意味ですよ。その理由はわかりますね」
即座に理解できた。
俺が手に入れたこの知識はレマノ自身のものだから。
「私のプライベート部分については省いてあります。でもそれ以外についてはほぼ一通り知識として入っている筈です」
「ありがとうございます」
レマノがそうしたのは、それが一番簡単だからでもある。
それでも市長補佐であるレマノの知識を一通り手に入れたのはこの先かなりの力になる筈だ。
それに毎回このようにする訳でも無いようだし。
「貴方は年若いですが、有用な知識を多数所持していて向学心もあるようです。それに敬意を表して私が可能な最大限の知識をお渡ししました」
「ありがとうございます」
感謝を込めて再度礼を言う。
他の世界から来た正体不明なガキにここまでしてくれたのだ。
感謝しないわけにはいかない。
「そうでもないですよ。貴方から得た知識を私も活用させていただきますから。さしあたってはあなたが障子を見て思ったガラスの製法。そして貴方が持ち込んだ服装等を含む道具類。それだけでも相応な価値があります。
実際、落ちてきた人の知識がそのまま役に立つ事例というのは多くありません。便利な世界に生まれた者はその便利さが当たり前。自分達を便利にしてくれている道具類の原理など知らなくて当たり前という人の方が多いですから」
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