§3 異世界の案内者

 声じゃない声に応じるべきかちょっとだけ考えた結果。

 とりあえず返答することにした。

 何せこのまま勝手のわからない処でいつまでもさまよう訳にはいかない。

 取り敢えず何か知ってそうな相手に聞いた方が早いだろう。


「誰だ?」

 返答方法がわからないので取り敢えず声に出してみる。


『私はこの町の管理担当者市長補佐を務めるレマノと言います。あなたは他の世界からこの町に来てしまった方ですか』

 なかなか話が早そうだ。


「そうです」

 肩書きからして偉い人っぽい。

 だから取り敢えず丁寧語で答えておく。

 声そのものは若い大人の女性の声に聞こえるけれど。


『意図せず他の世界から来て、帰る方法が無くて困っている。この状況に間違いは無いでしょうか』


「そうです」

 否定する事は無いので素直に答える。


『その件について色々ご説明等をしたいと思います。これから案内しますのでご足労お願いして宜しいでしょうか』


 説明するからこっちへ来いか。

 でもまあ手がかりが無いからよほど怪しい処で無い限り行った方がいいだろうな。

「わかりました」


 そんな訳で知らない町を右へ左へ歩くこと五分少々。

 周りの建造物から見ても明らかに大きい建物の中の一室に案内された。

 建物の窓口からここまで案内してくれた女性の言葉は俺には通じない。

 でもレマノの声じゃない声では此処で待つようにとのことだ。


 そんな訳であまり広くないこの部屋で待たせて貰う事にする。

 部屋内にはテーブル一脚と椅子四脚。

 あと壁に黒板と思われる板が張ってある。

 またこの建物も基本的に木造のようだ。

 木造と土塗りの壁があるところは日本と同じ。


 建物にガラス窓は無い。

 障子のような紙を貼った戸で外の明かりを入れる仕組みだ。

 障子と違うのは縦横の比率が正方形に近いところ。

 そして升目が障子より大きいところだろうか。


 取り敢えず俺が実際に、あるいは本等で見た様式に近いものは無い。

 レマノは別の世界と言っていたけれど、ならばここは地球では無いのか。

 銀河系とか銀河系とかが存在する宇宙とは別の宇宙という事だろうか。

 考えてもわからないものはわからない。

 そんな訳で説明役の登場を待つ。


 実際それほど待つ必要は無かった。


『失礼します』

 例の声が聞こえた後、横開きの戸が開く。

 現れたのは声の印象通り、若い大人の女性だった。

 年齢は教員実習で来る先生達と同じ感じだから20代そこそこ程度。

 元の地球だったとしたら白人と黄色人種の混血っぽい肌の色と顔立ちだ。

 目が大きく鼻筋が通っていて、髪は茶色の長髪。

 美人だと言ってもいいだろう。

 身長は160ちょいとそんなに高くないけれど。


『初めまして。私が市長補佐のレマノです。この後の説明及び貴方の身柄等の取り扱いの担当をさせていただきますので宜しくお願いします』


 大人なのに小学校を卒業しただけの俺にきちんと挨拶をしてきた。

 ならばこちらも丁寧に挨拶をさせていただこう。


「初めまして。ほし北斗ほくとと申します、宜しくお願いします」


 座っていた椅子から立ち上がって、名乗ってきちっと例をする。

 言葉は通じないが伝わっているようだ。

 だから丁寧にしておくにこしたことは無いだろう。


『さて、まずはお願いです。この通訳魔法ギフトはあまり複雑な内容の会話をする事が出来ません。そこで貴方にこのエリアの一般的知識のセットを習得していただきたいと思います』


 一般的知識のセットとはいわゆる社会情勢とか言語とか一般常識だろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る