第3話 博物館のcafe


「しんかい2000」潜行シミュレーター、とか。

 トリケラトプス全身骨格とか。フォッサマグナ断層模型とか。

 なかなか興味深い展示物は、わたしを飽きさせることなくつづいた。



 学生のときは理科と算数が得意だったくせに図書係をずっとやっていた。そういう子どもの好む図書というのは、アルセーヌルパンの「緋色の研究」と、「宇宙と深海のなぞ」だった。


 大人になって就いた仕事が飲食店経営企業の広報だから、理系も図書係もほぼ、実人生には役に立たなかったといってよい。


 しかしながら、インターネットの理系コミュニティで知り合った人との初デートが博物館に決まったとき、わたしはパソコンの前で小躍りした。


 初デート。

 しかも、博物館。

 もうその日にセックスまでしてしまってもいいくらい、ロイヤルストレートフラッシュな感じだ。


 博物館へつづく駅ではじめましてをした彼は、何度もオンラインで話したとおりのイメージだった。おだやかさんで、物静かなひと。控えめで、でも芯の強さを感じさせる人。

 わたしのようなフワフワした女を、特に何をするでもなくつなぎとめておける稀有な能力の持ち主と見た。


 チチカカ湖の水上集落の部屋の後、クライマックスはプラネタリウムだった。

 ゆっくりと倒れていく椅子。暗くなるドーム型の天井。わたしは彼の手を取った。女子からそういうのって、本当はいけないのかもしれない。けど、ここで手をつなぐのが一番の正解と思ったから。ロイヤルストレートフラッシュの完成のためにわたしは、今日一番の勇気を出した。握り返す彼の手の力で、それが正解だったことがわかった。ロイヤルストレートフラッシュだ。


 ベテルギウスの赤い輝き。スピカの白い輝き。馬頭星雲のピンクのガス体と、プレアデス星団の宝石のようなブルーのきらめき。

 わたし達は片手を結び合ったまま、無限の宇宙の光の中を旅した。


 上映が終わり、プラネタリウムの部屋を出ると、まだ明るい午後の日差しが白い壁に反射してまぶしかった。

 彼はわたしを館内のカフェに誘った。

 彼は紅茶(ダージリン・ティ)を頼み、わたしはココアを頼んだ。

 ゆっくりと暮れてゆく春の日差しを浴びながら、わたし達は今日の出会いがとても必然であったことを確認しあった。


 ドライブや、レストランでなく。

 居酒屋や、繁華街でなく。

 博物館で、いくつもの新たな知識を共有し、美しい自然にふたりで感嘆した。

 彼という、最強のカードが入ったことで、わたしたちは最強の手札になれたのだった。

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