第9話
俺は、生まれて初めて作詞というものをした。
レイが言うには、最終的にはゲーム会社の人がジャッジするので必ず採用されるとは限らないということだったのだが、それが逆に、相手が平伏すような素晴らしい出来のものを仕上げてやる! と俺の反骨精神を呼び起こしたのだった。
俺はネットで基本的な作詞方法について勉強し、レイの作った曲をひたすらリピートした。レコードの時代だったなら確実に擦り減ったであろうと思うくらい聴き続けた。
そして、久し振りに前作にあたるゲームをもう一度最初からプレイし直した。
このゲームは、それぞれ別次元の世界に住む二人の少年が日記を通じて遣り取りをし、お互いに自分の世界を救う為に冒険をするという内容だ。
日記による情報共有が重要な要素で、謎解きに密接に関わってくる。更には最終的に二人の世界が最初は同一であったことが提示され、最後は少年たちが初めて対面したところで物語が終わる。
恐らく当時まだ中学生だった俺には難易度の高いゲームだったはずなのだが、ストーリーが面白くて必死になってプレイした覚えがある。
改めてやってみて気付いたが、直接クリアするのには関係ない箇所にも粋な伏線がいくつか散りばめられていて、より二人の少年の関係性が浮かび上がる仕組みになっていた。
新作もコンセプトは変わらないという話だったので、俺は二人が互いに影響し合って成長していく過程を歌詞に落とし込んでいく。
自然と、俺とレイのことが重なっていった。
ようやく歌詞が出来上がり、俺はレイにデータを送った。作詞を請け負うにあたり連絡先を交換してあったのだ。
しばらくして、レイから電話が掛かって来た。
「マグ、これヤバイよ。凄く良い。僕、感動して泣いちゃったよ」
いつも冷静で毒舌なレイとは思えないような台詞だった。
「いや、そんな風に言ってもらえるとは思わなかったから、あの、なんだ」
俺は何を言ったら良いのか分からなくなって混乱していた。
「取り敢えず、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
言い合ってから、二人で爆笑した。こんなの、なんだか俺達らしくない。
それから俺達は、一緒にゲーム会社を訪問することになった。思わぬ形でレイと対面することが決まって、俺は柄にもなく緊張している。
いよいよ明日会う、という日も、俺達は相変わらずゲームをしていた。
「なぁ、リアルで会ってマグって呼ばれるの、何かイヤなんだけど」
「そう? 僕は本名も
「マジで!? それズルくない? じゃあ俺のことも本名で呼んでよ」
「エー、もうマグで慣れちゃったからなぁ」
「そこをなんとか」
それからは大変だった。お互いに変な綽名を言い合うので、まるで大喜利大会のようになってしまった。
俺達は、ゲラゲラ笑い合った。いつまでも、腹筋が痛くなっても関係なかった。
俺は、ずっとこんな風に笑い合えたら良いな、と思った。
奴には、絶対に口が裂けても一生言わないけど。
TPS あさぎ珠璃 @myyk
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