第111話 大団円
「どうしました、美佐都さん? なんかとっても痛いんですけど?」
俺の問い掛けに、更にホッペをプンプンに膨らませて唇を尖らせている美佐都さん。
何を怒っているんだろうか?
「私を助けに来たと言ってくれたのに、私の事放って置き過ぎじゃない?」
「そうですよ! しかも更に一人増やして! 本当に気が付いたら次から次と節操無さ過ぎです!」
「あっ痛い! 橙子さんまで! そんな事ないですよ! 誤解ですって」
橙子さんもつねり合戦に参加して来て二倍に痛い! なんで? まるで俺と紅葉さんの会話に嫉妬しているみたいじゃないか?
もしかして二人共、俺の事を? いやいや、普通に助けに来たと言ったのに、放って置いて他の人と楽しそうに話し込んでいたんだもの、そりゃ怒るよね。
うん、多分そんな感じだよ。過剰な期待は痛い目合うからね。
初めてギャプ娘モードと乙女モードのプチ怒り状態の二人を見た事で、親族の驚きが更に加速しているようだ。
特に美幸さん家系の親族は、学園内での状況を全く知らなかったんだから顎が落ちんばかりの驚きようだ。
『御婆様に続き、この二人の様はどう言う事なんだ?』とか『この少年は何者なんだ?』とか『橙子! 男の人になんて事を! はしたない』とか色々と言われているな。
最後のは橙子さんのお母さんだな。何かすみません、娘さんの性格を変えてしまいました。
あっ横でお父さんが『まぁ、まぁ、橙子も女の子らしくなってよかったじゃないか』とフォローをしてくれてる。
もしかして、お父さん? 普段の橙子さんにきつい事を言われていたりしていたのかな?
でも気を付けて下さい。お淑やかになった分、言葉の暴力は直接心に刺さって来ますよ?
「私達も蔑ろにされてる~!」
「そうだそうだ! 僕も頑張ったんだよ!」
「俺様だって頑張ったんだぞ」
あぁ、つねり合戦に千林シスターズ+1まで参戦してきたよ。
そうですね。確かにあなた達は放っておき過ぎました。
でも、後でちゃんとお礼をさせて頂くつもりでいましたよ?
多分美佐都さんと橙子さんが、俺に放って置かれた事に拗ねているのを見て、自分達も便乗しようと思ったんだろうな。
「千花先輩! 手加減して下さい! 千切れますって! あと、なに当たり前に千歳さんも混じっているんですか!」
う~ん、とっても痛いけど、これもある意味幸せな日常生活だなぁ。
やっと戻ってきた気がするよ。
誰一人欠ける事無く、明日からまた俺達の学園生活が始まるんだ。
「紅葉もあそこに混じってきたらどうですか?」
「そんな! 美佐都様と橙子様も居るのに私なんて!」
「ふふふ、遠慮して。じゃあ、私が死んだら次は彼に仕えなさい。そうしたら曾孫達に遠慮せずに一緒に居られるでしょう?」
「はい! そうさせて頂きます! ……でも、私はまだまだ美都勢様にお仕えしたいと思っていますので、どうか長生きをして下さいね」
「勿論ですよ。私は今日、
「はい! 喜んで!」
つねり合戦も俺の怪我を配慮してか、それともただ単にその行為自体が楽しくなっただけか、つねると言うより掴む程度の手加減が入り、痛みよりマッサージをして貰っているような心地良さに気分良くなっていると、少し離れた所にいた美都勢さんと紅葉さんのそんな会話が聞こえて来た。
そっかぁ~、夢が出来たのかぁ~。
玄孫って、美佐都さん? それとも橙子さんの子って事か……。
ええぇぇぇ! そ、それはどう言う意味なの?
もしかして、俺との子供って事なのか?
いやいやいや、そんな、俺なんて……。
そうそう、変な期待は厳禁だ!
俺は過去それで痛い目に会っているし。
何より本人の気持ちって言うのが大事だし……ハハハハ。
「もう! 曾御婆様ったら! そんな、私……」
「そうですよ。まだ結婚出来る年齢じゃないですし」
俺が頭の中に駆け巡る結婚と言う言葉を、必死に振り払おうとしていると、美佐都さんと橙子さんが、恥ずかしそうに声を上げた。
そして、その言葉と同じ様に恥ずかしそうに、チラッとこちらを見て来る。
え? え? どう言う事? 何で今二人俺の方を見たの?
それに、まだ結婚出来る年齢じゃないって、橙子さんはもう結婚出来る年齢ですよね?
え? もしかして、二人共……?
「「「ちょっと待った!」」」
「そうです、美都勢様。この場でその様な事を言うのは卑怯です。それに報告書で知っていますのでしょ? 他にも沢山居るんですよ? フェアじゃ有りません」
俺の思考が一つの結論に至ろうとする寸前、千林シスターズ+1と千歳さんが間に入って来て思考が吹っ飛んだ。
「ふふふ、そうですね。いえ、私としては光一君の子供なら誰との子でも、私に取ったら玄孫同然と言う事ですよ」
「え? やだ曾御婆様、そう言う意味だったの恥ずかしい」
「あっ、えっと、私は分かっていましたよ。えぇ」
「「「よかった~」」」
え? え? どう言う事? 俺の子供を抱っこしたいと言う事だったの?
美佐都さんや橙子さんのこと言う事ではなく?
あーー訳が分かんない。
「私は、親族と言えど他人の恋愛事に首を突っ込むなんて野暮な事はしません。かく言う私も自由に自分の恋に生きましたからね。光一君、あなたも自由に生きなさい」
そう言って美都勢さんは俺に微笑みかけてきた。
自分の恋に生きて来た……か。
そうだよね。美都勢さんは自由に生きてきたよね。
山で出会った何処の馬の骨か分からない人に一目惚れして、恋愛して、いつか迎えに来てくれると結婚を拒んでいたんだ。
かなりの恋愛自由人だよ。
「でも、御婆様? 牧野会長の事は別としても、昔から私に結婚相手に関して厳しく言ってきませんでした? てっきり家は厳しいと思っていたのですが?」
学園長が恐る恐るそんな事を言い出した。
そうだった、学園長が厳しい家だって言っていたな。
それが原因で学園長は色々と画策をして、可哀想な事にそれが全て裏目に出たんだった。
「誰を好きになろうと文句を言うつもりはありませんでしたが、限度が有ります。この家に害をなそうとする輩は排除する必要が有ります。それに、あなたは私に似ている所が有りましたから、何かの切っ掛けでコロっと変なのに一目惚れしそうで心配だったのですよ。まぁそれは当たらずとも遠からずでしたわね」
「うぅ、重ね重ね私の独り相撲だったのかぁ~。でもそれで和佐さんと結婚出来たし、美佐都と牧野君に会えたんだから、御婆様には感謝してるって今だから言えるわ! 御婆様も、美佐都も、牧野君もあの世の和佐さんも、それに皆皆愛しているわよ!」
学園長が皆に向けて手を広げて嬉しそうにそう言った。
その言葉で、親族一同笑いが起こる。
皆嬉しそうだ。
恐らく今朝までならこんな光景は見る事が出来なかっただろう。
絶対君主の美都勢さんの下、ピリピリとした空気の中行われていた親族会議。
伝え聞いていた創始者としての姿によると、あの光景が御陵家では日常だったのだと思う。
今日が新しい御陵家の始まりになるのかもしれないな。
まさしく大団円と言う奴だ。
この光景を見て、あの世に居る幸一さんと光善寺君は喜んでくれているだろうか?
「あぁ牧野君。少し聞きたい事があるんだがちょっと良いかね?」
「え? なんでしょうか? 郡津く……ゲフンゲフン。ええと美佐都さんのお爺さん」
俺がほのぼのとその光景を眺めていると、郡津くんが声を掛けて来た。
やばいやばい、また旧名で呼びそうになった。
そう言えば、目が覚めてから夢の中の出来事に関して細かな所が思い出せなくなって来ている事に気が付いた。
特に早送りだった箇所はかなりおぼろげだ。
もしかすると、全てが終わったから、このまま忘れてしまうのだろうか?
それは少し寂しいな。
「もう遅いよ! 君! ガハハハハ」
「う、すみません」
「ふむ、容姿だけじゃなく、その都合の悪い事を誤魔化す態度、そして言い方もそっくりだ。単刀直入に聞くが、もしかして、君は御陵先生の生まれ変わりなのかな?」
「え? 何を言って? そんな」
やっぱりそう思われていたか!
夢の事を喋っても頭がおかしいと思われるし、俺が聞いてもそう思う。
かと言って、今までの言動はまさしく生まれ変わりとしか言いようがないもんな。
う~ん、どう誤魔化そう?
「い、いやいやいや、違いますよ。そ、そんな事有る訳無いじゃないですか?」
俺は焦ってかなりキョドってしまった。
う~ん、逆に怪しすぎる。
美幸さんが『え? これが御父様?』とか言う顔しているけど、マジで違いますよ。
「いや、本当に違いますって……」
「そうですよ。光一君は、幸一さんの生まれ変わりじゃありません。昔の事を知っていたなんて些細な事です」
俺の焦って弁解している姿を、少し嬉しそうな顔をしながら美都勢さんがそうフォローをしてくれた。
一番俺の事を疑っているかなと思ってたんだけど、美都勢さんは俺が幸一さんじゃない事を分かっていたのか?
「え? でも御母様? それにしちゃあ……」
「違います! それに、もしですよ? もし光一君が幸一さんの生まれ変わりだとしたら……」
「生まれ変わりだとしたら?」
その場の全員が美都勢さんの言葉にごくりと唾を飲み、その真意を回答を待つ。
「もし、生まれ変わりだとしたら……、フフフ。幸一さんが私の目の前で、他の女の人に囲まれているのなんて許せませんからね。この手で、もう一度冥途へ送り返してやりますとも!」
「ひぇぇぇぇーーーーーー!」
美都勢さんは最初はニコニコとしていたが、最後の一言は、目で射殺すレベルの眼光と殺気を放ちながらそう言った。
本日一番の威圧で、しかも
恐らく親族以上にその殺気は俺に突き刺さっているので背筋が凍る。
怖ぇぇぇぇぇ!
これ分かってるんじゃなくて、そう自分に言い聞かせているだけだーーーー!
「あと、前もって一族の皆に言っておきますが、これからも変わらずに厳しく御陵家を取り仕切っていきますので、勘違いなさらぬように」
「は、はいーーーーー!」x親族一同
その言葉に慌てて親族一同が、正座をして頭を下げた。
その光景に、それ以外のメンバー、そう俺達襲撃メンバーと千林ファミリーはプッと噴き出したけど、美都勢さんに睨まれたので同じく頭を下げる。
ははっ、これも今までと変わらない日常って事なのかな?
俺は心の中に広がった幸福感に酔いしれた。
――― グラリ。
「あ、あれ? なんか目が回って来た」
全ての心配事が終わって気が抜けたからなのか、目の前がぐらりと回り出した。
その声に皆が驚き集まって来る。
「医者をすぐに読んで!」
「牧野くん! 死なないで!」
「コーくん、無理し過ぎよ! ほらすぐに横になって」
皆、口々に俺の事を心配して声を掛けてくれた。
死にませんよ、美佐都さん。ちょっと眠いだけです。
まぁ、お姉さんの言う通り、確かに無理し過ぎたかな?
でも目が覚めて良かった。
そうじゃなかったら、こんな幸せな気持ちにはなれなかっただろう。
もしかしたら、今の時間は頑張った俺達に幸一さんがくれた最後のプレゼントだったのかもしれないな。
多分そうだ、ありがとう幸一さん。
これで、本当に安心して眠れるよ……。
「ごめんなさい。皆、俺ちょっと寝るよ。おやすみ……」
俺は皆に囲まれて幸せな気分に包まれながら、段々と意識が遠くなっていくのを感じた……。
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