第25話 六文銭
「こーいち、みんな酷くないか?」
俺はあまりにも不名誉な噂を流された愚痴をこーいちに漏らす。
あれ? こーいちさんなんで半身を剃らしてるんですか?
「お、おう。そうだな……」
「ど、どうしたんだよ?」
なんでちょっと後ろに後退ってるんだよ。
「うん、お前の事は信じてるんだけどな? 俺はノーマルだから」
「違うから! 俺もノーマルだよ‼ 俺は女の子が好きだから!」
イテッ
宮之阪さん蹴らないで
イテッ
なぜ八幡まで?
イタッ
なんか飛んできた!
誰だ? あっドキ先輩っすか。
チラッ―
「キャッ」
サッ
イタタッ
藤森先輩なぜ貴女までしかもほっぺをつねるのですか?
「美佐都さんを泣かせたら怒るからね?」
なに勘違いして訳の分からないこと言ってるんですか?
この人には今の会話内容と接点無いから無害と思ってたけど、ギャプ娘先輩経由の接点が有ったのか。
ぎゅう~
つねるのを止めたと思ったら両手で頬を挟むのは止めて下さい。
口がタコになってしまいます。
この人毒舌以外にもスキンシップが激しかったりもするんだよな。
『やっぱり女たらしなんだ……』
『いやだ、女の敵?』
『ハーレム羨ましすぎるぜ』
「違うから~‼」
「まぁ冗談だよ。あまりにもコーイチの反応が面白くてな」
こーいち~。
山元も隣で笑ってる。
クラスのみんなも一緒に笑ってる。
「酷いよ、みんなして」
う~んこれはクラスのみんなと打ち解けたと言うことなんだろうか?
ちょっと違う気もするけど。
「しかし、いっちゃんなんか変わったな」
「え? そうか?」
まぁ多少自覚はしてるかな?
確かにさっきも思ったけど人との距離感がおかしくなってる気がする。
このやり取りも今までの俺なら有り得なかった。
逆にクラスメートの端で目立たなく笑ってる側だったろう。
「昔はもっと飄々として大人な感じやったで」
そうかな? あの時はアキラに連れ回されて毎日ぐだぐだしてたと思うが。
「いっちゃんと初めて会った時、なんて大人な人なんやろうって思ったもん」
初めて会った時か~、確かアキラとはぐれたとかで公園の隅で泣いてたんだっけ。
見兼ねて声を掛けて一緒に探してやったんだ。
そこに泣いてる八幡を見て一緒に居る俺が泣かしたと思ったアキラが殴りかかって来たんだよな。
あれがアキラとの初めての出会いでもあった。
誤解が解けたアキラとはその後仲良くなって、それ繋がりで八幡も俺と一緒に遊ぶようになったんだ。
まぁアキラとは別れ際に大喧嘩したけど……。
う~ん、なんか最近の状況と微妙に被ってるな。
よく考えたら俺って昔からこんなトラブルによく巻き込まれてた気がしてきた。
ここからすぐに居なくなるからとトラブルをトラブルとして認識しなくなっていただけなのか?
「今のいっちゃんも結構好きやで」
「ちょっ、ちょっとやめろよな~。冗談でも恥ずかしいし、アキラに聞かれたらやばいだろ~」
急に真面目な顔してそんな事言われると無茶苦茶動揺するって。
「アッキーは今おらへんやん……」
ちょっと八幡さん? え? それって?
「ププッなんてな、冗談や。あたしは客観的に見てそっちの方がええなって思っただけや」
「なっ、からかうなよ。びっくりするだろ」
あーーびびった。
なんか三方向から殺気が飛んで来てる気がするけどスルーしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「と言う感じで学園内の案内は終わるけど何か質問は?」
案内を終えた庶務先輩から最後の締めとしてそんな事を聞いて来た。
「は~い、先輩のスリーサイズを教えて下さ~い」
「は~い、先輩彼氏居るんですか~」
おっクラスの男子が何人か命知らずな質問をしてるぞ。
外観からは無害そうな雰囲気を醸し出してるけど、この人結構危険な人物だぞ? 大丈夫か?
「ハハハ、面白い質問だ~。良いだろう話してあげようかな」
あっ、こう言う質問を受け付けるユーモアは有るんだ。
「その前に君たち? 情報料として六文銭を貰えるかな?」
……………。
こえぇぇぇぇーーーーーー!
顔は笑ってるのに目と声は獲物を狙う猛獣みたいな迫力が有るぞ?!
六文銭って三途の川の渡し賃かよ!
この人結構どころかかなりの危険人物だわ。
周りのクラスメートもあまりの恐怖に顔が引きつってるし。
「他には~? ん、無いようね。じゃあこれから三年間この学園でよく学び、よく遊び……、まぁ色々頑張って下さい」
そう言って庶務先輩は頭を下げて案内を終わらせた。
色々って、途中までは良かったのに最後は面倒臭くなったんだろうな。
「あ~、牧野くん忘れてたわ。美佐……、生徒会長からの伝言です」
帰ろうとした庶務先輩が何かを思い出したようで俺の所に戻って来た。
と言うかギャプ娘先輩からの伝言って、わざわざ生徒会長と言い直したのは業務連絡って事か。
なんか嫌な予感しかしないよな。
このまま忘れてくれてても良かったのに。
「え~、牧野くん。放課後必ず生徒会室に来るように」
「え? 嫌ですよそんなの」
「来るように!」
先程同様の殺気を放つ庶務先輩。 あと……。
イタイイタイ!
両頬をつねって伸ばすのを止めて下さい。
人間の頬はそれ以上横に広がるように出来ていません。
「
「よろしい、では待ってるから」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
校内案内も無事終わり放課後となったが、生徒会長命令で残らざるを得なくなった俺は今すぐ逃げてしまいたい衝動に駆られながらクラスメート達を見送る。
「牧野~、がんばれよ~」
「無事帰れるように祈ってるからね~」
「庶務の先輩に殺されないようにね~」
「ハーレム羨ましいぞこのやろ~」
「副会長x牧野くんか。見てみたいわね」
「いや牧野くんx副会長かも。副会長ってどんな方なんだろう~」
先程の庶務先輩に対する恐怖体験のお蔭も有ったのかクラスメート達がエールを送ってくれる。
あれは何気に庶務先輩が俺がクラスに溶け込めるようにと気を使ってやってくれてたんだろうか?
……いや、よく考えたら俺の事情なんて知らないだろうし、あれはただ単にダルいのにしょうもない質問して来た馬鹿に切れただけだな。
クラスメート達の声援が正直嬉しい。
最後の方、なんか怪しかったけども。
見た事の無い副会長に思いを馳せてるようですが、本人は妖精みたいな男の子ですからね。
と言うかそんな事実も無いですからね?
「じゃあ、こーいち。また明日な」
「お~、がんばれよコーイチ!」
「牧野くん頑張ってね~」
こーいちと山元も仲良く下校して行った。
「いっちゃん大丈夫なん? あたしもついて行こか?」
八幡は優しいな。
「んっんん」
突然の咳払い、誰だ?
「なんなら私がついて行ってあげても良いけど?」
あっ宮之阪か、でもなんで?
二人ともそんなに心配してくれてるのか?
まぁ宮之阪はポックル先輩への対抗心が有るかもしれないけど。
「ありがとう。今日は大丈夫だよ。 と言うか誰か連れて行くと藪から蛇どころか鬼が出て来そうだから、その気持ちだけで良いよ」
心配そうな二人を置いて俺は生徒会室に向かった。
「何で呼ばれたんだろうなぁ~」
生徒会室に向かう足で、ポツリとそんな事を呟いた。
俺って入学してから毎日生徒会室に行ってないか?
昨日今日は親父の所為なのは確かだけど、入学式の時は偶然声掛けられたんだよな。
何か運命……いや因縁的な何かを感じるわ。
あれ? でもよく考えると今まで呼ばれた内容自体はそれ程悪い物では無かったかも?
一回目はただの掃除だったし、その後のカオスだったけどある意味楽しいお茶会。
二回目も学園長が昔を懐かしんでの事だろうし、最後は自分を頼れと言ってくれた。
そう思うと呼ばれる目的自体はそれ程悪くなかったんじゃないか?
それに付随するあれやこれやで良い印象が無いだけか。
もしかすると今回も俺の思い過ごしかもしれないな。
最近色々と大変な事が続いたんで少しネガティブになっていただけか。
そう思うと心が少し軽くなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「では、皆の多数決を取りたいと思います。賛成の人は挙手をお願いします」
「私は賛成です」
「僕も賛成~」
「もっちろん、私も大賛成~」
「わたしも賛成ですね」
「え? え? 何のこと?」
生徒会室に着くなりギャプ娘先輩から空いている席に座るよう促された。
って、空いてる席って一つしか無いじゃないか。
昨日はもっと席が並んでたのに今日は生徒会の面々と俺用の椅子しか無い。
何か嫌な予感がしたけど今更逃げるのは無理そうなので大人しく席に着いた。
そんな俺を取り囲むように座っている生徒会の面々。
そしてギャプ娘先輩がおもむろに先程の台詞を言った。
「では満場一致で可決されました」
何が?
「では、牧野くんよろしくね?」
何を?
「あ~そう言えば牧野くんに伝え忘れていた事が有ったよ」
庶務先輩? その言い方忘れていない人が言うセリフですよね?
「今日呼んだのは他でも無い。実は君の指名制生徒会員広報の任命決議の為だったんだ」
「えーーーーーーーーーーー!」
何か今日は大声上げてばかりだな。
「聞いてないですよ。何ですかそれ?」
「そりゃ言ってない……、いや忘れてたからね」
これ庶務先輩、確信犯だよな。
勿論間違った意味の。
「え? 橙子ちゃん? 言ってなかったの?」
「言ってたら100%逃げられてましたからね」
あっギャプ娘先輩の差し金じゃなかったのか。
そんな腹黒い人じゃないと分かって安心しましたよ。
「まぁ逃げてました。と言うか今でも逃げたいですね」
あっ会計先輩が扉前でSGGK並みのディフェンスで逃げられない様にしてる。
下を見るとポックル先輩とウニ先輩まで二人して会計先輩のポーズを真似してる。
あーーーーちくしょう! 可愛いなぁーーーー。
「と言うか、指名制生徒会員ってなんですか?」
広報ってそう言えば今年居ないって言ってたな。
「牧野くん大丈夫? 嫌だったら……」
「はい、どうどう、今更そんな事言わないで下さいよ。話が纏まりそうだったのに」
折角ギャプ娘先輩が助け舟出そうとしてくれたのに庶務先輩が阻止した!
「私から説明するわ。昨日話したわよね? 美佐都が一年の時に私が他の子と手伝ったって」
「はい、聞きましたけどそれってただの手伝いじゃないんですか?」
勝手に手伝ったんだと思ってた。
「ただの手伝いじゃないのよ。 生徒会には強力な権限とそれに伴う義務が有るからね」
「大体わかって来ました。要するに足りない人数を生徒会が後から引っ張って来る為の制度ですね」
まぁ生徒会活動には責任が伴うから誰かれ構わずと言う訳にも行かずそう言う指名制度は必要なのだろう。
とは言えそれとこれとは別だ。
「さっすが牧野くん! 話が早いわ! そう言うことよ」
「おだてたって何も出ませんよ? 何で俺なんでしょうか? もし親父の息子って事で選ばれたのなら辞退します」
親父の息子ってだけで期待されたらたまらない。
もしそう言う理由ならこの人達とはもうこれっきりだ。
「う~んネガティブだなぁ~。じゃぁ逆に聞くけどこのメンバーはあなたが牧野会長の息子だから選んだって本当に思ってるの?」
え? 何を言ってるんだ? 皆あんなに親父の事を褒めていたじゃないか。
俺に親父程の活躍を期待されても困りますよ。
「違うんですか?」
「違うわよ!」
はっきり言われた。
「あのね美佐都は勿論の事、千夏も千尋も、藤森は……まぁよく分からないけど、私だって別に貴方のお父さんなんて別に関係無いよ?」
口では何とでも言えるんだよなぁ。
「はっきり言うけど貴方がただの牧野会長の息子ならこっちから願い下げ」
「え? どういう事ですか?」
「よっく考えてもみてよ。憧れの人の息子が無能ならがっかりなんてものじゃないでしょ? それに憧れてる人本人でもないし。実績でも有れば別だけどこんな短期間じゃ分かりっこないわよね」
そんな事生徒会長にも言われたな。
「そうですね。なら余計俺なのは何故なんでしょう」
「ええとね。今回の生徒会選挙の時、色々有ったって言ってたでしょ? それでみんなちょっと疲れてたって言うかギスギスしてたの」
「そうなんですか? 昨日の片付けや打ち上げじゃそんな様子は無かったですよ?」
みんな和気あいあいとしてたじゃないか。
「私もびっくりしたわよ。先週の打ち合わせじゃ美佐都の鉄面皮具合は二年生の時の比じゃなかったし、千夏もずっとカリカリしてた。千尋も急に『オレは~』とか言い出すわ、その後熱出して寝込んじゃうわだし、藤森は……まぁこんな感じだったかな? だからこれから半年どうしたら良いんだろうって頭抱えてたのよ」
この人苦労人だな~。
そう言えばそれぞれ最初に先輩達に会った時、みんな余裕が無い感じだったか。
「それがなんでこんな感じになってるんですか?」
ギャプ娘先輩は顔を真っ赤にしてあうあう言いながら庶務先輩になだめられてるし、ポックル先輩は俺に抱きついてくるウニ先輩を必死に引き剥がそうとしてる。
とてもそんな状態だったと思えない。
「そ・れ・は、あなたのお陰よ!」
「え?何でですか?」
俺のお陰ってどう言う事だ?
「こんな風に変わったのはみんなあなたに会ってからなの。しかもこんな短時間でここまで人を変えるなんて本当にびっくりよ」
いや俺が変えたわけじゃないだろう。
ギャプ娘先輩は事故だし、ポックル先輩はお姉さんと涼子さんのお陰だ。
ウニ先輩はこけたのを助けた事が切っ掛けだった。
「いや俺は別に何もしてないですよ?」
「それでいいの。牧野くんが変えようと思ったのか思わなかったのかは関係無い。みんなあなたのお陰で変わったのは事実だし、みんなもそう思ってる。私もとても感謝してるんだよ?」
それでいいと言われても……。
でもそう言ってもらえるとなんか嬉しいな。
「だからもう一度言うね! 牧野くんあなたを生徒会役員満場一致により広報に任命します。どうか受けてください」
そう言って会計先輩は頭を下げた。
三年の先輩が俺なんかのために頭まで下げてお願いするなんて。
ここまでされては流石に断れないな。
「う~ん、仕方ありません。分りました。どれだけ先輩達の期待に添えるか分りませんが一生懸命やらせて頂きます」
「今の録音した?」
え?
「勿論です」
ええ?
「やったぁ~これで牧野くんと一緒に生徒会やれる~」
えええ?
「この人案外ちょろいですね。ハハ」
ええええ?
「みんな? どう言う事なの?」
あっギャプ娘先輩はやっぱり知らなかったんですね。
「あの~もしかして?」
「そうもしかしてよ!」
会計先輩が満面の笑みでそう言った。
「いや~いつ見ても桃山先輩の交渉術は凄いですね~。良い詐欺師になれますよ」
「そんなに褒めないでよ~」
それ褒め言葉なんですか?
それより今のって?
「俺を騙したんですかーーーーーー!!」
酷いちょっと感動したのに。
すぐに辞めてやる!!
「まぁまぁ、みんなが変わったのは本当の事だって。感謝してるのも本当よ。あなたのお父さんが関係無いと思ってるのも本当。嘘は言ってないわ」
「うっ……」
とは言っても良い感じで言いくるめられた気がするんだが。
「それにこの音声データが有るしもう逃げられないわよ?」
「先程学園長にメールで音声データを送っておきました。逃げたら退学になってもおかしくありませんね」
「そんなぁーーーーー!!」
会計先輩も庶務先輩もやる事がエゲツナイ!
「え? え? みんなどう言う事なの?」
一人だけ分かっていない様子のギャプ娘先輩。
ギャプ娘先輩って結構純粋だよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます