第24話 混ぜたら危険

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!」


 ドキ先輩なんか凄い事言って去って行ったぞ?

 痴漢行為ってそんな濡れ衣だよ。

 抱締めたのは助ける為の不可抗力じゃないか。

 そりゃ暫く抱き続けちゃったけど、それでも痛みで暫く体が動かなかっただけだし、酷い事言う先輩だな。

 そもそも誤解だって言ってるのに暴力振るって来るのも酷いよ。

 と言うかあの小さな体にどれだけのパワーを秘めてるんだ?

 ポックル先輩もウニ先輩も普通に見た目通り非力でぽやぽやしてるのになんでドキ先輩だけ規格外なんだ?

 それともみんな本当の実力を隠していたりするのだろうか?


 ……千林一族……ブルッ。


 いやまぁドキ先輩も言ってたけど他の兄弟と一緒に見られたくないとか言ってたし、あの先輩だけ違うんだろう。

 でも、そこまで怒る事だったんだろうか?

 そもそもとび蹴りなんてして来なかったらこんな事にもならなかったのに。

 俺自身の所為で大怪我させる所だったとは言え、助けるために体を張ったんだけどな。


 ……ん? そう言えば助ける時に服を引っ張った途中のあの"ぷに”って、あれ、やっぱり……?

 ……。

 …………。


 い、いや感触思い出してなんかいねぇし?

 身体の割に大きかったとか、凄く柔らかかったなんて思ってねえーーし!


 しかしこれで俺に恨みを持つ女子がまた増えてしまったな。トホホ……。

 1人目は宮之阪。

 まぁ忘れたい黒歴史の人物から可愛いとか言われたらそりゃ嫌だろうし、逆三角形事件はこれも不可抗力とは言え年頃の女の子にしたら許せることじゃないよな。

 あと千林先輩も絡んだお姉さんを巡る戦いで千林先輩を加担した形で退場したのもマイナスだった。

 う~ん最初に再会した時に思い切って声を掛けてたらもっと違う関係が築けたかもしれないな。


 2人目はギャプ娘先輩。

 助ける為とは言え生徒会の宝である旗を投げ捨てたのはそりゃ怒るよな。

 それに異性耐性が無いと言う弱点を暴いてしまったのも良くなかった。

 この時も思わず『可愛い』って言っちゃったんだよな。

 打ち上げの時もそのおろおろする仕草が可愛かったからちょっと意地悪したくなって『いいお嫁さんになりますね』なんて言ったら倒れちゃって大変だったな。

 どうやらそれを庶務先輩が学園長に告げ口したのが今日の呼び出しに繋がった訳だし、口は災いの元だ。


 最後は先程のドキ先輩。

 他の二人は精神的ダメージで済むけど……、いやそれかなりきついけど、ドキ先輩は100%暴力だもんな。

 先輩的には嫌だった姉と間違えると言う事もそうだけど、おっぱい触ってしまったのは致命的だな。

 勿論触る気は無かったけども、本人にとって触る気有るか無いかなんて関係無いからね。

 仲が良かったらごめんで済む場合も有るけど出会いから最悪だし下手したらマジで警察沙汰だよ。


 俺の学園生活ってまだ登校3日目にして色々大変だわ。


 入学早々初の昼休みでかなり濃い時間を過ごした俺は、取りあえず午後からの学校案内の為、みんなの待つ教室に戻った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい、大丈夫だったか?」


 教室に戻るとこーいちが心配そうに声を掛けてきた。

 本当にいい奴だよな、こーいちは。


「あぁ学園長自体は親父と知り合いだったから挨拶したかっただけみたいだ」


 それ以上の意味が有ったっぽいけど俺には良く分らなかった。


「なんなん? その意味深な言い方は~? なんか他にも有ったみたいやん」


 う~んドキ先輩の事は言っても良いのだろうか?


「こーち、……牧野くん。さっき廊下で走ってるとこ見たけどどうしたの?」


 宮之阪って俺呼ぶときポロって昔のあだ名を言いそうになるよな。

 もう呼んでくれてもって……山元と被るか。


「宮之阪見てたのか!」


 逃げる時廊下を走ったけど、1年のクラスの方とは逆方向だったのに何か用事でも有ったのか?


「千林先輩だっけ? あのちんちくりんの2年生の人。何か怒りながら追っかけてたけど何か嫌われるような事したの?」


 そこまで見てたのか? もしかして俺を心配して見に来てくれてたのか?

 いや流石にないな。

 しかし千林先輩をちんちくりんって…。

 それに宮之阪なんか嬉しそうなんだけど。

 お姉さんの身内と喧嘩したから、お姉さんからの評価が下がるって思ってるのかな?

 信者同士の争いは怖いなぁ。

 でも残念だったな宮之阪!

 あれはポックル先輩じゃなくドキ先輩なんだ!

 ……何勝ち誇ってるんだ俺?


「あ~あれはこの前の千林先輩じゃなく妹さんらしいんだ」


「ヒッあんなのが二人も居るの?!」


 そりゃびびるよな。


「いや三つ子だよ」


「え? 一匹見つけたら三十匹居ると言うアレなの?」


 黄檗さんより酷い言い草だ。


「あの先輩は姉や兄に間違われるのが大嫌いらしくて、知らずに間違って挨拶しちゃって怒らしてしまったんだ」


 こう説明するとちょっと理不尽だよなドキ先輩。


「本当にあなたって……、あなた?…ふふ……あなた。良い響き」ポッ


 ん? どうした急にぶつぶつ言い出して。

 それになんか顔赤くなりながらニヤニヤしてるぞ?


「どうした宮之阪?」


「な、なんでもないわ! 牧野くんて女の子にちょっかい出しすぎなのよ!」


 なんか凄い怒ってる。

 しかもちょっかいなんて人聞きの悪い…ん? そう言えばなんか引っ越してきてから女性のトラブル多いな?


 ここ数年女性には特に極力好かれも嫌われもしないスタンスを取っていたのにこの短期間で発生したトラブルと言うと、お姉さんは天災みたいな物だから措いておくとして涼子さん、宮之阪とギャプ娘先輩にポックル先輩そしてドキ先輩かの5人か。

 黄檗さんは毒舌だけど敵じゃないと思うし、ウニ先輩は男の子だ。

 千歳さんと学園長はママキャラだし、会計先輩と庶務先輩はあまり接点無いから関係無いな。

 山元はこーいちの彼女だし、八幡もトラブル起こすとアキラに殺されかねないので取り扱いに注意してるしそんな事は無縁だ。

 故郷に引っ越した所為か、先日情けなくもお姉さん達の前で号泣すると言う大失態を犯してしまった件と良い、どうも人との距離感が掴めなくなっている様だ。

 気を付けないとこれからも知らず知らずの内に誰かを傷付けて誰かの恨みを買うかも知れない。

 ……正直今日みたいな目はこりごりだ。


「ありがとう、気を付けるよ」


 素直に忠告を受けておこう。

 あれ?宮之阪がなんか怒ってる顔してるぞ? 何で?


「やっぱり女の子にちょっかいかけてる自覚が有ったのね! 最低!!」


 えぇぇぇぇぇーーーーーーーー?

 なにそれーーーーーーーーーー?

 なんか俺の周りって理不尽な怒り方する女の子多くない?

 こーいちも山元も笑ってるよ。

 八幡はなんか面白く無さそうな顔してるな。

 なんだろう? 話に入れなくて怒ってるのかな?


「なんか二人してイチャイチャしてるとこ悪いけどご飯食べんでいいん?」


 ちゃんと聞いてたか八幡?

 今の会話の何処にイチャイチャしてる要素があったんだ?


「イチャイチャってそんな人聞きの悪い……」


「人聞きの悪いってどういう事よ!」


 何故そこで宮之阪が怒るんだ?


 もう訳が分らないよ!


 相変わらずこーいちと山元は俺達のやり取りを見て仲良く笑っている。

 お前達二人のような青春を送りたいなぁ~。

 こんな状況であまり食は進まなかったが午後の学校案内の為に昼食を口に詰め込んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…なぁコーイチ? なんかさっきから物陰に隠れながらチラチラお前を睨んでいる小鬼みたいなのが居るんだか心当たりは有るか?」


「しっ目を合わせてはいけません!」


 目を合わせたら飛び掛ってきますよアレは。

 う~ん、あのドキ先輩の事だから落とし前と言ったらもっと暴力的なことだと思ってたのに……。


 チラッ―

「キャッ」

 サッ


 はぁ~俺がドキ先輩の方を見るとこうやって物陰に隠れるんだよな。

 こーいちによるとすっげぇ睨んでるらしいんだけど。

 しかし『キャッ』はどういう事だ?

 本当に俺を殺そうとしてた人と同一人物なんだろうか?

 やっぱり女の子として辱めを受けた事による恐怖心って奴なのかな?


 チラッ―

「キャッ」

 サッ


 現在俺達が何をしているのかと言うと、担任に連れられてこの学園の各施設の説明を兼ねた学園散策を行っている。

 勿論理事長室と学園長室の場所も教えてもらった。

 遅いよ! と言うか、呼ばれたのがせめて放課後ならドキ先輩に襲われる事も無かったのに!


「はい、こちらが体育館ですね。まぁ別に説明しなくても建物見たら分りますよね。ハハ」


 この人もギャプ娘先輩程じゃないけど感情篭ってないよね。

 最後の『ハハ』も笑ってじゃなくて普通にカタカナの『ハ』を二回言っただけだしね。

 案内が面倒臭いのか生徒会居た時よりもかなりダウナーな感じだ。

 この校内案内には各クラスに付き1人、生徒会長を除いた役員が付き添いで説明役を担っている。

 俺のクラスは庶務先輩こと藤森 橙子先輩。

 クールx毒舌と言う混ぜたら危険な属性を持つ敵に回したくない人だ。

 今日はダウナー成分も混じってるし、取り扱い注意度が危険水域までアップ中だ。

 そもそも俺は学園長に呼ばれた原因の一つ、と言うか発端はこの人の告げ口だったんじゃないかと思っている。


「やぁ牧野くん。楽しんでる? ごめんねー、付き添いがわたしなんかで。美佐都さんの方が良かったでしょ。それとも千夏が良かった? …もしかして千尋くんが良かったり?」


 うわっ名指しで近寄ってきた。

 しかも何やら不穏な発言を大きな声で!

 クラスメートの注目浴びてるよ。


「い、いえ藤森先輩に案内してもらえて、俺嬉しいです」


 イテッ!

 いつの間にか後ろに居た宮之阪に蹴られた。

 何するんです? 宮之阪さん。


「あら浮気? 牧野くん見掛けによらず…、いや見かけ通りの女たらしね」


 なにさらっとした口調で問題発言してるんですか。


「何言ってるんですか! 俺ってそんなに女性と接点ないですよ?」


「…………」


 ……あれ? なんか周りから視線を感じるんだけど


『牧野って入学式に美女三人侍らしてたよな』

『クラスの八幡と宮之阪とも仲良くしてたぞ』

『さっきから付いてきてる小鬼みたいな人もずっと牧野の事見てるよな』

『あの人この学園で有名な"レッドキャップ"って呼ばれてる狂暴な人らしいぞ』

『そんな人がなんで牧野の後ろを着いてるんだ?』

『それにさっき庶務の先輩の口から出た三人って生徒会長と書記と副会長の名前だったよな?』

『え? その三人とも?』


 なんかあちこちで俺に対する不当な噂話されてるんだけど?


『いや副会長は男らしいぞ!』

『……もしかして両刀なの?』


「ご、ご、誤解だーーーーーーー!」



「ハハ、冗談冗談。可愛い後輩をちょっとからかってみたくなっただけよ」


 訂正する。

 この人は敵に回したら怖いじゃなくて、敵に回さなくても超迷惑で怖い人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る