第二章 学園生活は大変です
第17話 嵐の予感
「お、おはよう宮之阪」
あっ頬を膨らませてそっぽ向いた……、やっぱ怒ってるなぁ。
次の日とうとう俺の学校生活がスタートすると言うめでたい門出! ……なのだが、だが!
昨日の宮之阪VSポックル先輩によるお姉さんを巡るファン同士のバトルに巻き込まれた俺は鉛の様に気が重く、タングステンの様に重い足を引きずりながら教室までやって来た。
入学式の日と同じく既に宮之阪は席に座っていたのだが挨拶をすると冒頭の様にそっぽを向かれた。
俺はバトルに巻き込まれた被害者だと思うのだが、結局ポックル先輩と一緒に退場した形だったので俺まで敵認定されてるようだ。
しかし10年で人は変わる物だな。
昔はもっと素直で大人しかったと思うんだが、……こんなに気がきつくなってるなんて。
俺の後をちょこちょこ付いて来たあの頃が懐かしい。
まぁ今じゃあの時の事は宮之阪にとって忘れているか黒歴史の1ページなんだろう。
昨日途中で仲良くなれそうな雰囲気は有ったのだがポックル先輩のお姉さん愛に阻まれてしまったのが惜しまれる。
まぁ逆三角形事件やポックル先輩連れ歩き事案を吹聴される様子は無さそうなので良しとするか。
「なぁなぁ! あんたもしかしていっちゃん? あっ牧野くんと違う?」
あれ? そのあだ名懐かしいな確か小学6年の時のあだ名だっけか?
ここにそのあだ名を呼ぶ奴が居るわけないんだが? いや一人心当たりが有ったんだった。
入学式の時クラス別けのリストに見覚えあったあの名前……。
俺はその声の主を確かめようと顔を上げた。
その声は俺の前に座っている女子からのものだった。
「もしかして、八幡か?」
雰囲気は変わらない、いやちょっと髪を短くしたかな。
少したれ目で人懐っこい顔をしたこの顔は当時の面影のままだ。
「やっぱりいっちゃんか~! ほんま懐かしいわ~。何でこんなところに居るん?」
相変わらず元気がいいな。
「いやそれはこっちの台詞だよ。お前こそ何でここに居るんだ?」
「あたしも親の転勤で去年引っ越してな、今この街に住んでるねん。ほんまびっくりしたわ」
凄い偶然だな。
でもこいつまで引っ越したとなるとアイツ荒れただろうな~。
俺の時も殴り合いの喧嘩になったし。
と言っても置いて行くって言う負い目も有った訳だし、俺だけが一方的に殴られたんだが。
「……あなた達、知り合いなの……?」
突然物理的な冷たさを感じさせるが如くの声色で宮之阪が割って入って来た。
顔を見ると同じく見た物を凍らせる魔力を秘めているかの目でこちらを睨んでいる。
体から凍気が立ち上っているのが見えるかのようだ。
なぜこんなに怒ってるんだよ宮之阪さん? 敵に対して容赦無いね。
「あ、あぁ、こいつは俺が6年生の頃大阪で暮らしていた時に知り合った八幡って子だ」
「
宮之阪の迫力に圧倒された俺だが、八幡は平然と自己紹介をした。
流石だな、まぁアイツと付き合うならこれくらいの胆力は必要だよな。
アイツ狂暴だったもんなぁ、俺なんかまるで舎弟扱いで山とか秘密基地とか連れ回された。
まぁ今となっては懐かしい思い出だ。
「……で? 付き合ってたの?」
宮之阪は更に体から発せられる凍気が強くなり本当に周囲の気温が下がったのかと錯覚する。
「違う違う、こいつは当時アキラって言う友達経由で知り合った子だ。冗談でも付き合うとか言ったらそいつに殺されるんで止めてくれ」
よく3人で遊んでたので一時そう言う噂が出た事が有ったのだが、誤解なのに問答無用で殴られた。
「そんな噂が流れるんはもうごめんやわ、次はあたしもただじゃすまへんし」
八幡は流石に殴られはしなかったが裏切者と問い詰められて弁解に苦労してた。
結構嫉妬深かったんだよなアキラって。
「そうなんだ」
何故か宮之阪が嬉しそう。
あぁ春っていいね。
なんだか周囲を覆っていた冬の厳しさも遠のき、小動物たちもこの春の日差しに生の喜びを謳歌しているようだ……って大袈裟か。
思わずそう感じる程の空気の変わり様に俺は安堵した。
「んで、あんたはいっちゃんとどんな関係なん?」
ん? 八幡ちょっと怒ってる?
まぁ不躾な質問攻めみたいなのを受けて流石にムッとした様子だ。
「あぁこいつは幼な……」
「いっちゃんには聞いてへん!」
「はい……」
え? 怒ったらお前こんな怖かったの?
当時八幡はいつもニコニコ朗らかでこんな面が有る事を知らなかった。
怒らせない様に気を付けよう。
「ただの他人よ」
八幡の気迫を軽く受け流した宮之阪は昨日と打って変わって俺の事を他人と言い切った。
宮之阪さん確かにそうなんですがそこまでハッキリ言われると少し傷付いてしまいます。
しかしこの八幡の迫力を物ともしない宮之阪もただものじゃないな。
「あぁ~そうなんか。ごめんごめん変な聞き方して堪忍な」
宮之阪の回答で何を納得したのか知らないがいつもの八幡に戻った。
「あたしらいい友達になれそうやね。はい握手」
「え、えぇよろしくね」
ちょっとトゲトゲしい感じがしないでもないけど仲直り出来て良かった。
ただでさえ横からの圧力で胃が痛いのに斜め同士の圧力まで加わったら逃げ場が無いからね。
「そう言えばいまだにアキラとは仲が良いのか?」
喧嘩別れしたあの時の事はいまだに心の中で燻ってるところが有るので気になるんだよね。
「うんアッキーとは毎日連絡してるで。まぁ引っ越しして当初は色々有ったけど最近は落ち着いて来てちゃんと返事くれてるわ」
まぁ俺の時でさえあんなに暴れたんだ。
八幡まで去ってくとなるとそりゃ色々と有っただろうな
「そうか、しかし仲が良かった俺と八幡二人とも居なくなってかわいそうな所が有るよな」
「そやね~。アッキー他にも友達が居ない訳じゃないんやけど、あたしら程仲良いのは今でもおらんし」
う~んアキラはちょっと特殊だからな。
「でも今みたいに親しい人を作りたがらへん頑なな態度取ってんのはいっちゃんのせいやねんで」
「え? なんで?」
「好きだった人が去っていく事に耐えられへんって言って大泣きして、それからあんまり人と仲良くせんようにしてるわ」
え? あいつ俺の事都合の良い舎弟としか思ってないと思ってたわ。
大泣きって……、そう言えば最後殴ってくる時に目が赤かった気がするな、そうだったのか。
「じゃあ八幡まで居なくなったらもう人間不信で生涯孤独になっちゃうんじゃないか?」
「まぁあたしは誰かと違ってすぐに連絡したし、アフタフォローも完璧やで」
うっ俺は喧嘩別れしたとは言え全く連絡してなかったわ。
「そうか~少し責任感じるな~」
「まぁいざとなったらアッキーの事あたしらで面倒見たらええやんか」
ゾクッ、なんか宮之阪からまた凍気が流れて来た。
「いやそこまで人生左右されるような事でも無いだろ……」
まだ高校生なんだし、そのうちアイツも別のコミュニティーを持つと思うぞ。
「まぁそれは冗談として、今度アッキーがあたしんとこに遊びに来るんよ。いっちゃんも一緒に来る? 責任感じてるんだったらそこで謝って仲直りしたらええやん」
えっアキラ来るの? 会いたい気もするけど今はちょっとなぁ~。
あっ凍気が消えた。出したりひっこめたり宮之阪も忙しいよな。
「うーん今回はやめとくよ。まだ会って何話せばいいか考え付かないし。いつか会って謝らないといけないとは思うんだけどね」
そう言うと八幡は腕組んでうーんと考え込んだ。
「まぁええわ。今はアッキーもあたしと離れて寂しがっているところやし、そこであたしといっちゃんが同じ学校に通ってるなんか知ったらもうどれだけ荒れるか。それに凄くかわいそうやしな」
そうだよな離れていった二人が一緒に居るって知ったら凄く怒るだろうな。
「なぁ八幡、街でお前達が遊んでる時にばったり会ったら大変なんで、どこ行くか事前に連絡取りたいんだけどSNSのID教えてくれないか?」
ポケットからスマホを取り出してSNS画面を開く。
この学校自由な校風って事でスマホ持ち込みOKなんだよね。
生徒の自主性及び自己責任という事で勿論授業中に使っているのがばれたら没収&呼出し喰らうし、テストの時は先生が一時回収する決まりだけど。
「うん、そうやね。はいこれ」
見せられた画面を見てSNSアプリに連絡先を設定する。
これで一安心だ。
「じゃあどこに出かけるとか分かったら連絡お願い」
「はいはーい。まぁこれで好きな時に連絡できるしよかったわ」
何故かとなりから冷たい圧力が来るけどどうしたものか……。
まさかID交換したい訳でもないだろうに。
そう思いながらも宮之阪の方を確認しようとした時、
ピンポンパンポーン
教室内に校内放送が鳴り響いた。
何事だとみんながスピーカーに注目する。
『生徒会長より連絡します、本日始業式終了後の―』
あーギャプ娘か。
始業式関係の連絡かな。
『HRが終わり次第、―』
下校の話か?
『1-Aの―』
え? うちのクラス?
『牧野 光一は、生徒会室に来る事―繰り返します―』
俺かよ! なんで?
「いっちゃん何したん?」
深刻な顔で八幡が聞いてくる。
「いや心当たりは有ることは有るんだけど正直何が何だかさっぱりだ」
旗の事か?
実は破けてたとか?
「こー……。牧野くんあなた書記の人だけじゃなく生徒会長とも面識会ったの?」
ん? 何か言い換えた? 宮之阪も少しジト目で聞いてきた。
「入学式の時、お姉さん達待ちで一人校舎に居たら、生徒会長に見つかってそのまま荷物運びさせられたんだよ。それで面識が有るんだ」
旗落とした事やギャプ娘事件は伏せておこう。
「へ~」
ジト目が更にきつくなる。
そのジト目は止めて下さい。
でもあの時俺は名前を言ってなかったのになんでバレたんだ?
それとも旗の件とは関係無く、
伝説の生徒会長の息子として……。
なんにせよ俺はこれから巻き起こる嵐の予感を抱かざるを得ないのであった。
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